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夜の舞台で
熱気が上がる室内。テンポよく叩かれる手拍子に、パルサは口端が上がるのを抑えきれない。
演奏者と観客が一体感になるこの感じが何よりも好きだ。
いつものキタラの代わりに手首に鈴のベルトをつけて打ち鳴らす。
着ている衣装もいつもの服装ではなく、知り合いに会ったら、どこぞの娼館娘の着る服だと怒られそうなものだった。
上は紫の肩無しへそ出しのベストに、腿の付け根までしかないパンツ。腰と肩、それに顔と髪を桃色の薄いベールで、余計な筋肉や身体の造りを上手く隠しているため、女性にも少年にも見える中性的な容姿を再現していた。
パルサは笑みを浮かべたまま、声を高くして春の喜びを歌う。
手を大きく持ち上げ、腰をしならせ膝を付き、太陽に祈るように目を閉じる。
ベールで目元が隠れているが、身体全体で表現することで観衆の理解を得る。
再び、身体を弾かせ後ろに飛び、足を曲げて楽し気に踊る。
次は夏の喜びだ。
激しく、熱く、たたらを踏んで跳躍する。
舞台の隅で顔を隠したグドの太鼓の音が激しさを増す。
腕を振り、何度も振り、優しげな鈴の音を荒々しく表現した。
太鼓が打ち鳴らされ、パルサは地面に項垂れるように倒れる。
歓声が止み、ざわめきが聞こえるが、これも演出の一つだ。
パルサはゆっくりと両腕を上げて歌い出す。
先ほどまでの荒々しさなど無かったことのように静かに、秋の優しさを歌い表現する。
実りの秋は豊作の季節。
農夫の多いこの町では、嬉しそうにパルサの歌を聞き、酒の入ったグラスを打ち鳴らす人もいる。
そして最後は冬の歌だ。
厳しく辛い季節の冬にも喜びがあるのだと、パルサは伝える。
腕につけた鈴のベルトを外して、舞台の上で踊ることなく歌だけを披露した。
『春の喜び、夏の喜び、秋の喜びの先には
冬の喜びが待っている
寒さと厳しさに耐える人々
そこには家族の温もりが、私を温めてくれる
優しい母のスープの味、逞しい父の語る物語
全ては冬の喜び
母を愛し、父を尊敬し、子供は成長するもの
私たちが大人になったら繰り返そう
家族の愛を
家族の優しさを
永遠に伝えよう
それが冬の喜び…… 』
高い声を切り、パルサは深々と首を垂れる。
しばらく、先を期待していた観衆だったが先がないことを悟り、各々拍手と歓声の嵐で包まれた。
「スゲエぞ! あんちゃん!!」
「もう一曲! もう一曲歌ってくれ!」
「もういっそのこと、俺の嫁になっちまえ!!」
「はあ? ふざけんな! アレは俺の嫁だ! テメエはすっこんでろ!」
観衆たちからの賞賛とお捻りを貰うと上品そうな笑みを浮かべながらパルサは舞台袖に戻った。客側から完全に見えなくなると、パルサはニィッと黒い笑みを浮かべた。
「クックック、今回もお捻りゲット! これだから娼館から貰った衣装での舞台は、格好は止められないんだよなあ」
腕一杯に積まれたお捻りを見下ろすパルサに、小麦色の髪を一つに結び、鼻頭にそばかすを散らす少女が呆れて肩を竦めた。
「あんたのその業突く張りを、外にいる連中に見せてやりたいわ」
「焼くなよ、リドリー。オレの美しさに見惚れるのは自然の摂理だと思うよ」
「誰が誰に焼くのよ」
「リドリーが、オレの客に」
「バカ言ってんじゃないわよ。それと、あんたのナルシスト発言はどうでもいいけど、本当に気を付けてよね。そういった格好の娯楽、この辺りではかなり珍しいから、変に気を持った連中に襲われて知らないからね」
パルサの軽口をいなし、フフンと胸を張るリドリーに、パルサも肩を竦めた。
「襲われたら襲い返すさ」
「やだ、変態発言?」
「正当防衛だよ、正当防衛。これでも旅をしているんだ、町にいる時の厄介事の一つや二つ、片付けられないわけないだろう?」
パルサがその場で着替えはじめたので、リドリーはパルサに背を向けた。
最初の頃は赤面し慌てふためき抗議をしていたリドリーだったが、何度言ってもその場で着替えることを止めてくれないため、いつしか慣れてしまった。
(慣れって怖い)
短くため息を吐き、リドリーは天井に視線を向けた。
「厄介事に巻き込まれない努力はしないの?」
「そりゃあするさ。けど……」
「けど?」
おうむ返しで聞き返すと、視界の端を白いローブが通り過ぎる。
旅人用の簡素な服に白いローブを着た“いつもの格好”だ。
パルサは踵でターンし、拳から親指だけを立てて自分自身を指さした。
「美少年のオレの魅力に、厄介事が目を離させてくれないんだよ」
「ナルシスト」
パルサは嬉しそうに笑うだけで反論はしなかった。
何が楽しいのかさっぱり分からないが、宿屋の娘として多くの旅人と接する機会が多いリドリーは内心、複雑な想いを抱く。
(上辺が軽い人って、自分を大切にしない人が多いんだよね)
そして、そういう人ほど二度とこの宿に足を踏み入れてはくれないのだ。
それがどういう意味なのか、分からないリドリーではなかった。
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