100年後のYoutuber

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

100年後のYoutuber

今日は朝から特集番組などが組まれ、日本全国が妙に浮き足立っている。別に人々の生活には影響するところも少ないはずなのに、えも言われぬ期待やら興奮やらで盛り上がっているようだ。そんな世間を尻目に、私は自分のアパートで昼飯のカップうどんを食べようとしていた。 熱々のうどんを口に運ぼうとしたまさにその時、何の前触れもなく押入れのドアがスパーンと開き、中から颯爽と人間が現れたのだった。 「はいどーも、こんにちはトムです。ぬるんッ!」 ……は? 状況を把握するのに、うどんを口に入れようとするポーズのままたっぷり10秒はかかった。 トムと名乗るその男は、サングラスをかぶり頭は白とピンクに染めて見るからにただのチャラい兄ちゃんの出で立ちである。もしかして新手の強盗か?とりあえず、恐る恐る尋ねてみることにした。 「えっと、すいません。どちらさまでしょうか?」 謝る義理もないのだが、ここは慎重に下手に出てみる。 「はじめましての方ですね!タイムトラベルユーチューバーのトムでーす!ぬるんッ!」 「タ、タイムトラベルユーチューバー !?ぬるんッ!?」 「あ、ぬるんっていうのは決めゼリフみたいなものなので気にしないでください。新しい元号が始まった時の様子を撮りに100年後からやって来ました。ほらこのサングラスがカメラになってまして、今あなたのことをバンバン撮影中ですっ!」 「撮影中ですっ、て勝手に撮られても……。って100年後!?未来から来たんですか!?」 「えぇ、令和100年からやってきました」 「そ、そんなに令和続いてるんですか?今の皇太子様でも結構な年齢だと思いますけど?」 「いやー、この100年で医療技術がだいぶ発達しましたからね。それと色々政治的な理由でまだやめれないみたいですよ」 「えぇ……、なんだかブラックな未来だな」 「それにしても、今日が平成最後の日ですよね?」 「まあそうみたいですよ」 「じゃあなんでそんなもの食べてるんですか?」 トムはすっかり冷めてしまったカップうどんを指差して尋ねる。 「別に、改元するからって自分には関係ないし。それに結構おいしいですからね」 お気に入りのカップうどんをそんなもの扱いされて、少しムッとして答える。 「なるほど!さすが平成人は言うことが違いますね!ぬるんッ!」 すでに平成人という言葉が一般的なのか。 それにしても、いきなりやってきて不躾な奴だな。 カップうどんやらぬるんやら、いちいち言うことが神経を逆なでる。 「それでは!最後に平成人からコメントを頂きたいと思います!どうぞ!」 と、小さい銀色のマイクにようなものを私に向ける。 コメントだって!?いきなり人の食事中にやってきて、そんなことを聞かれても困る。しかも人の許可なく撮影さえしている。 ここはひとつ、この無礼な未来人にビシッと言ってやる。 「正直、未来に幻滅しました。100年経ってもユーチューバーは人の迷惑も考えないクソ野郎だし、こんなクソ動画が世界中に垂れ流されている。そんな気持ちを抱いた私が新しい元号を晴れ晴れとした気持ちで迎えられると思いますか?」 突然の抗議にトムは少し困惑したような顔をしていたが、 その顔を見て、私は少しスッキリした気持ちになっていた。 しかし、トムはすぐに一人でなにかわかったような表情で深くうなづいてこう続けた。 「なるほど……つまり平静(平成)な気分じゃないってことですね!さすがッ!」 「なっ!?そんなこと言ってな––」 「それでは平成最後の日からトムがお送りしました〜。ぬるんッ!」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!