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『官』の多い女の子 1
四柱推命LOVER
四柱推命とは、生まれた年、月、日、時間の4つから星をそれぞれ2つ、まず干支、それと火・木・土・金・水 の五行から算出し、運勢を見る
官の多い女の子
官の正官、偏官がある。
女の子にとっては 結婚相手や恋人という意味があるが、それも多すぎると問題になる事も
例えば、こんな感じにーーー
「じゃ、行って来るね。たぶん泊まると思うけど、帰るときはラインするから」
花菜は中学時代のジャージの上に使い古してよれたパーカーを羽織り、背後でドアをしめようと必死でドアノブを引く母に言い放った。
別に引いたところで、指をはさまないようにとゆっくり閉まる仕様のドアの開閉速度はかわらないのだが、と思いつつ、いくら言ったところで、そうよねー、とほほ笑みながらやはりノブを全力で引く母に、何もいうまいと決めたのがもう数年前の事だ。
花菜が出かけるときの服装にはうるさく口を挟む母だったが、今回は何も言わない。
近所に一人暮らししている大学時代からの友達のところへ行くだけなのは分かり切っているし、そう偽って花菜が男のところに夜遊びに出かけるわけがないと確信しているからだそうだ。
花菜とて年ごろ、親にまで男っ気がないのを、当たり前のように周知されていることに思わない部分がないでもない。
けれど、今からいく友人のことを思い出して、ただ男っ気があればいいってものでもないからなぁ、と頭の中でひとりごちた。
自転車で坂を駆け下りて、信号を渡って風を切ればすぐ、ものの5分で友人宅だ。
慣れたように住民用の駐輪場に自転車を止め、「こんばんは」と、ちらりと小窓から花菜の顔を確認した管理人に挨拶をする。
「おー、今日は泊り?」
気さくに聞いてきた管理人とはもう顔見知りのいいところで、花菜は、「今日はたぶん帰ります」とだけ答えてエレベーターを上がった。
少し古いマンションの5階、左から二番目の部屋の前で立ち止まった花菜が、いつものように「うちにテレビもワンセグもありません」と書かれたメモ帳が張り付けられたインターフォンのボタンを押した。
「ハーイすぐ開けるね」
紗也の声が返ってきた。
花菜も勝手知ったる部屋にドン、と家から持って来た、総菜や、つまみとチューハイの缶をテーブルの上にドサッと置く。
「おいしそう、私これ好き」
紗也が言いながら皿を並べた。
とりあえずカンパイとカチッとチューハイのカンを鳴らす。
「私、家でもちょっと食べてきたから紗也 どんどん食べな」
花菜がおかずをすすめると、「うん、ありがとう。ダイエットしようって思ってたのに、見るとたべちゃうよね。明日からがんばるるよ」とパクパクおいしそうにほうばる。そして
お腹が一段らくすると、花菜に「ねぇ、土曜空いてる」と聞いてきた。
「空いてるけど」
「だったら、洋服買いに行きたいの一緒についてきて見てほしいんだよね」
もじもじ床に座った膝をこすりまわせながら、紗也は首を微妙に揺らし始める。
この首ふりが始まったという事は男だなっと花菜は思った。
「デート服がほしいんだ」
花菜が、すでに分かり切っている事実を紗也に聞くと、案の定、「なんでわかったの」
と紗也は目をパチパチとわざとらしく瞬かせる。さらに加速していく首ふりに、花菜は少しいらだって眉をピクリと動かした。
花菜の心情に気付くはずもない恋する紗也は、かまわずに、ねえ、とスマホの画面を花菜に押し向けた。
「なに?どうした?」
花菜が少し煩わしそうに画面をのぞき込む。
「あのね、この前スマホの紹介アプリに登録したんだけど、コレ話してなかったけ」
饒舌に話し出した紗也に、「いいや?」と花菜が首を振る。
「そっかぁ、それでね、そこでラインのやりとりして日曜日に会うことにしたんだぁ。あのね写真が載せてあるんだけど竹内涼真に似てるんだよね」
紗也はちょっととくいげな表情で花菜に向かって口元をふふ、と上げてみせた。
出たよ、また、紗也の竹内涼真に似てる。
花菜は紗也に呆れ、しかしそれをださずに、「そうなの?」とだけ答えた。
紗也が恋愛を始めると必ず言い始めるその文句に絡みつく記憶をたどる。
前の竹内涼真似は竹内涼真の顔をダンプで3回くらいひいたカンジだったし、その前の人は似ているのはどちらも人間の男というだけだった。
頭の中に浮かぶ醜悪な顔に、思わず本音が口から出そうになったが、それを言うと紗也がスネてめんどくさいだけなのを短く無い付き合いで学習していた。
紗也の話からすると、ラインではかなり良い感触らしく、共通の趣味の旅行の話で盛り上がったようだ。不動産関係の仕事をしている27才という。
花菜の持参したチューハイを2人で飲みながら紗也の日曜のデートの期待はふくらんでいった。
次の日、デート用の服も無事に買って、日曜日、花菜が家でダラダラと休みを満喫していると、無機質な着信音と控えめな震えが手に伝わってくる。
電話?誰?
そう思って表示を見ると、紗也からだった。
「もしもし」
「花菜、あのね、来ないんだよ、もう1時間待ってるんだけど、どうしよう」
紗也の声はもう半べそをかいている。
「わかった。今からそっち行くから、どっか近くのカフェに入って待ってて、すぐ行くから」
花菜は電話を切り。また何かあったぞ、と悟った。
昨日、あんなに張り切ってたのに、なんて言えばいいんだろう、と関係ない花菜も困り顔になりながら急いでジャージを脱ぎデニムにはきかえただけで、紗也の待つカフェに向かった。
カフェに着くと、まさに台風に会った野良猫のような紗也がしょぼんと座っていた。
「紗也」
声をかけ、隣に花菜が座ると、ホッとしたのか情けなく眉を下げた。
何があったのか花菜が聞くと、最初、待ち合わせの場所について約束の時間から20分待っても来ないので、ラインをしたところ「ゴメン、今、〇〇駅だから、あと15分くらいで行けると思う」と返ってきたという。
それでそのまま一時間待っても姿を現さないらしい。
ちなみに、待ち合わせ場所が見えるカフェに入ってずぅっと外を見ているが、未だ男は現れていない。
「なんでだろう」
紗也は半べそで言うが、花菜にはだいたいの予想はついた。
きっと来たのだ。少し離れたところから紗也を見て、タイプじゃなかったから帰ったのだろう。
相変わらず最低のヤツだと思った。
懲りもせずに最低男(ヤロー)にひっかかる紗也もなんだかなぁ、と口の中で言葉を濁す。
「たぶんもう来ないと思うよ」
まだぐずぐず言いながら待とうとする紗也を半ばに引きずるようにつれて帰った。
部屋に入り、「せっかく新しい服も買ったのにね」と花菜が言うと、ポロリと紗也の目から涙があふれた。
「恋愛がいつもうまくいく人もいるのに、なんで私はうまくいかないのかな」
紗也はつぶやくように言った。
「お化粧ぐちゃぐちゃになっちゃったね、顔洗ってくれば」
花菜が労わるようにね、と紗也の背中を押す。
紗也は「うん」と素直にバスルームに行った。
花菜は、ちょっとかわいそうではあるが、紗也に全く問題がないかといえばそれはどうかなと思っている。
紗也は恋愛体質で常に男の人がいないとダメなタイプだ。
それだけなら別にいいと思う。でも、失敗するたびに花菜に泣きつき、花菜の今日のようにかけつけてあげた優しさや、心からのアドバイスもひと晩あればすっかり忘れてしまい、逆に男の人から言われた事はずっと覚えているという性別によって脳の仕組みが変わってしまう不思議な体質なのだ。
花菜は今までの紗也の恋愛遍歴を思い出していた。
紗也は高校卒業までを地方都市で育ち、大学入学を期に上京した。
上京してすぐに、どういう経緯で知り合ったのかは花菜はしらないのだが、40才くらいのサラリーマンとつきあっていたらしい。初めての相手もその男だという。
会ってその夜、ホテルへ行ったらしい。
最初にその話を聞いた時には花菜は世の中本当にそんなことがあるのかとビックリした。
父親と10才くらいしか変わらない、そんな人がいる話は聞いたことがあるが、自分の身近で聞くなんて思ってなかったからだ。
ガチャとスッピンになった紗也がお風呂から出てきた。ちょうど同じタイミングでインターフォンが鳴った。友達の美和だった。
美和も花菜と紗也と同じ、大学時代からの友人だ。
美和は学生の頃から何に対しても積極的で頑張り屋の分、歯に絹を着せぬ物言いで、痛い所をズバッと付く。
その日も部屋に入って来るなり、「また紗也が男に騙されたんだって、今度はどんな竹内涼真?とうとう鼻の穴が3つのを見つけたとか」と言って大笑いした。
「ひどい。そんな言い方しなくてもいいじゃん」
言いながら、わざとらしく頬を膨らませてみせるのはさっぱりとしてジャージに着替えた紗也だ。
泣きはらして赤くなった目を見た美和に、「うわ、ブス」と笑われて機嫌を少々損ねている。
ちょうど洗面所で化粧を落としてきたところだというのに、いらだちに顔色が赤くなっていた。
美和はそんな紗也の怒りなどお構い無しに「ねぇ、ねぇ、今度はどんな竹内涼真だったのぉ」としつこく聞いて来いるので、見かねた花菜は今日の顛末を美和に話して聞かせた。
「なるほどねぇ。今度はそう来たか。紗也、アンタ最低男を全種類集めるの目標にしてんでしょ」
美和はハハッと紗也を指さした。
散々笑ったあげく、美和はお腹を抱えてひいひい言っている。
「そうだ、今まで集めた最低男の分類しようよ。ほら花菜、あいつ、何だっけ、1年の時のサークルのアイツ。名前何だっけ、ま、ま、ま間島!間島健二!」
意地悪く笑う美和に、花菜もあぁと頷いた。
「そうだ。間島君。うわぁ、いたね 。思い出した。あれは…」
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