『官』の多い女の子 5

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『官』の多い女の子 5

旅行に行く日の朝、間島は予約していたレンタカーに乗って紗也を迎えに来た。 「おはよう。いい天気で良かったよね。貸して」 紗也が持っていた旅行バックを取り、後部座席に入れた。 「ありがとう」 紗也は極力平常心を装って言ったが、頭の中では流行りのラブソングが大音量で鳴りっ放しだ。 間島君って、こんなに紳士的なんだぁ、大切にされてるって感じる。 素敵な彼と車で温泉旅行なんて「私ってリア充女子かも」と幸せで全身が満たされて行くような気がしていた。 助手席に紗也も座り、「じゃ、出発するね」とギアをドライブに入れた。 「そうそう、レンタカー代1万2千円だったから、後で頂戴ね」 少し走らせたところで、間島が言った。 リア充を満喫していた紗也は一瞬「えっ」と思ったが、すぐに笑顔で「うん。わかった」と物分かりよく返事して見せた。 運転してもらうぶん、車にかかった費用くらいは出さないとだよね。 自分で納得してみせて、オッケイと指を頬の横に作った。 山梨県に入った所でコンビニに寄る事にした。 夜中にお腹が空くといけないねとお菓子やジュース、酎ハイ等をポイポイっとカゴに入れていく。最後に間島がささっとコンドームを入れた。 「ここで買うの?」 気恥ずかしさに言った紗也に、間島が耳元でわざとらしく言ってみせる。 「ナシでいいなら、俺は大歓迎だけどね」 それを聞いて、照れにボ、と顔に熱がのぼった紗也は、ちょっと恥ずかしかったが間島と一緒にレジに並んだ。 すると間島が、「俺、先に車戻ってナビ確認して来るね」と言ってコンビニを出て行ってしまった。 「えっえっ」 お会計は?と思ったが仕方がないので、紗也が会計を済ませた。 しかし、コンドームのバーコードを読み取る時に店員さんにチラッと顔を見られた気がして気まずかった。 それから2人で河口湖辺りを散策した後、夕方近くに宿に入った。 宿の部屋は広くはないが、オシャレなインテリアでベランダからは河口湖も見えた。 夕食を食べ、温泉のお風呂にも入って、2人で部屋でコンビニで買った缶チューハイを飲み始めると、横に座る間島の手が紗也の胸にのび、そのままキスして押し倒した。 いつもの流れだ。 触ってもらえるだけで、求めてもらえるだけでうれしい。 紗也はこみ上げる高揚感と満たされていく何かに身を許す。 されるがままに、あまり気持ちよさのわからない愛撫に紗也がわざとらしく鼻にかかった声を漏らすと「あぁっダメだぁ」と間島が溜息のような呻きのような声を漏らした。 「どうしたの」 紗也は、何か自分にダメなところがあったかとサッと心配顔になって訪ねた。 「なんか、温泉入って酒飲んだから、今日勃たないんだよ」 ボソボソっとまるで独り言のように言った。 「あっ、うん、そうなんだ。大丈夫だよ」 紗也が下着をつけようとすると、間島が紗也の腕を止める。 くるぶしにひっかけたままになった下着を紗也の脚を指でたどりながら片足だけ脱がすと、チュと音をたてて腕にキスをした。 「ねぇ、紗也ちゃんが口でしてくれない」 膝立ちの紗也の前に立ちあがった間島が蠱惑的な笑みで紗也を見おろす。 「えっ、私やった事ないよ」 紗也がちょっと困った声を出す。 「大丈夫。俺が教えるから」 優しげな声音と、頭をなでる手に紗也は言われるがまま顔を彼の股間に埋めた。 次の日の朝は家族風呂を予約していたので、お風呂でも「ねぇ紗也ちゃん、お願い。昨日と同じ事して」と紗也にキスをしてきた。 間島にイヤとは言えない紗也は「ここで………?」と言いながらも、間島の言う通りにした。 その日は事前に調べていたオーガニックランチのカフェで昼食を取った後、そのまま帰途に着いた。それでも下道をずっと走ったので、紗也のアパートにつく頃には夕方になっていた。 「着いたよ。楽しかったね、忘れ物ない」 車を留めた間島が後部座席から紗也のバックを取り出して言った。 「うん。大丈夫だと思う。ありがとう。楽しかったね」 紗也はバックを受け取ったが、間島がそのまま帰るのかとがっかりしていた。 「あっそうだ」と間島が切り出したので、紗也は、やっぱりちょっと寄って行くのねと嬉しく思っていると、間島はほら、と紗也の前にと手のひらを出した。 紗也は微笑んでその手に自分の手を重ねようと腕を出したが、間島は少し自分の腕を弾いて、紗也の手が重なる前に言った。 「レンタカー代1万2千円、今貰っていいかな」 いつもの甘い声でそういう間島に、紗也は、あ、そうだった、と手をつなぐのかと勘違いした恥ずかしさがこみ上げるのを必死に斯くして、カバンから財布を出す。 紗也がお金を渡すと、間島はさっと金額を確認する。 手早く折りたたんだお札をズボンのポケットに押し込むと、間島はちらりと紗也を見た。 「間島く、」 言いかけた紗也にニコリと笑うと、間島は「じゃあね」とだけ言って走り去って行った。 「コンビニ代は私が出したのになぁ」 名前の付けられないもやもやとした気持ちに気付かなかったふりをして、道端に独り残された紗也は溜息をついて自分の部屋に戻った。
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