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突きつけられた現実
私は現在、警視庁特別捜査班の心優しい先輩方から手厚い歓迎を受けていた……のではなく、辱めを受けているのだった。
「まさか、警視庁の刑事が初出勤の日に、男に間違われた挙句、痴漢に間違われて、たまたま居合わせた同じ警視庁の刑事にお縄になったなんて……。ホント災難だったなぁ」
そう言って、ここ特別捜査班の班長である 鬼塚 理人 警部、五十五歳が、中年太りの立派なお腹を手で大事そうにスリスリしながら、しかも楽しそうに、熊みたいな大きな身体に相応しい豪快な笑い声を響かせている。
鳴神によると……。
定年まであと数年。それまでなんとか平穏に静かに過ごしたいと思っているらしい、ことなかれ主義の持ち主なんだそうだ。
私は、出勤の途中、鳴神に班のメンバーのことをあらかじめ詳しく聞いていたのだった。
「班長、笑ってる場合じゃありませんっ! 刑事を痴漢と間違えて、しかも手錠を掛けた挙句、手錠のカギを持ってなかったなんてことが他の部署に知れたら、いい笑いもんですよっ! まったくっ! 鳴神、以後気を付けるように」
「は~い」
「鳴神! 返事くらいピシッとしろ!」
ここを取り仕切っている筈の鬼塚班長を厳しい口調で嗜なめてから、腹黒王子に釘を刺したのは……。
キラリと鋭い光を放つメタルフレームのメガネの奥から、同じく鋭い視線を放っている主任の 吉沢 晴樹 警部補、三十五歳、独身。
吉沢は、所謂"ノンキャリ"だけれど、三十代の若さで警部補にまでのぼりつめた相当なキレ者らしいのだが、ゲイ疑惑があるらしい。
吉沢とコンビを組んだ警視庁の刑事の中には、そういう世界に脚を踏み入れざるを得なかった犠牲者が居るとか居ないとか……。
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