歓迎会のその後で

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「えっ!? 本当ですか?」 「あぁ、別にお前に言われたからじゃないからな? 俺は、あの奥さんと話してて、違和感っていうか、なんか引っ掛かったからであって、断じてお前の意見を聞き入れたワケじゃねーから……って、こらっ! 手を休めるな!」 「……あっ、はい」  今日の聞き取りの成果を隣のデスクでゆったりとコーヒーを味わい(くつろ)ぎながら指示を出してくる鳴神先輩に言われる通り、私は報告書にまとめていた。  そんな私に、鳴神の『明日から拘留期限までの約一週間の間、聞き込み捜査を続ける』という言葉に驚き、また自分の言葉を聞き入れてもらえたことが嬉しくて。タイピングの手が(おろそ)かになっているのを指摘された私は慌ててキーボードに向き直った。  当然のことながら、鳴神先輩が強調していた『断じてお前の意見を聞き入れたワケじゃねーから』という言葉なんて、脳内お花畑を繰り広げている今の私の耳には入っていないのだった。  ――来週から鳴神先輩と一緒にまた捜査ができる。それに、この後、呑みに連れて行ってくれるらしいし。  私は気を抜くとニマニマと緩んでしまいそうになる顔をなんとか引き締めようと必死だったのだ。  そこへきて、隣の鳴神先輩がどういう訳なのか、椅子から立ち上がって、私の背後からゆっくりとパソコンの画面にその影を落としながら近づいてきたかと思えば……。 「どれどれ? もう終われそうか?」  なんて、呑気に呟きを落としながら、私の肩にぬっと顔を吐息のかかる程の至近距離まで寄せてきたから、堪ったもんじゃない。  途端に、鳴神先輩が寄ってきた方の頬や首、肩に至っては、その体温までがジンワリと伝わってきてしまうのだ。  私は顔が熱くなってしまうのをなんとか抑えようと努めてみるも、そんなことを意識したところでどうにかなるものでもない。  私はなんとか平静を保とうと、早鐘を打ち始め胸の鼓動や、紅くなっているだろう顔をなんとか鳴神先輩に気づかれないように、ひっそりと息を潜めて、鳴神先輩が一刻も早く離れてくれるよう祈るしかなかった。
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