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「……は、はい。なんとか入力終わりました」
もう粗方の入力もできていたため、すぐに終えることができて。
「おー、さっすが俺の奴隷。じゃぁ、帰る準備でもすっかなぁ」
ホッとしながら、でも気を抜いて可笑しな声にならないように返事を返した私の傍から、至って普通の様子で何事もなく離れて自身のデスクに戻った鳴神先輩。
私は、鳴神先輩のことを恨めしく思いながらパソコンをシャットダウンした。
それからデスクの上の書類を片しながら隣のデスクにチラリと視線を向けると、今度はスマホを弄り始めた鳴神先輩。
さっきといい、昼間のあのキスのことといい、意識しているのは自分だけで、いつも通りで意識してる素振りなんて微塵も見せない鳴神先輩の態度に、悔しいやら、腹立たしいやら、どこから湧くのか分からないけれど、私の苛立ちは募るばかりだ。
苛立ちながらノートパソコンのコードを抜いて纏めていると、隣の鳴神先輩が動く気配がして。
見れば、なんでも時計好きだという鳴神先輩のドイツのなんたらいう飛行船をイメージしてデザインされたというクロノグラフのクラシカルな腕時計で時間を確認していて。
癖なのか、ポケットの中身を確認しながら声を掛けてきた。
「時間もちょうどいいし、そろそろ行くか?」
「……は~い!」
「何? お前、怒ってないか?」
「……別に、怒ってませんっ!」
「いやいや、怒ってんじゃん!」
「きっと、人使いの荒い鳴神先輩のお陰でストレスが溜まってるんですよ」
さっきから訳の分からないこの苛立ちに、鳴神先輩とのこのいつものやり取りに、私はどうしても反抗的になってしまうのだった。
それがどうしてなのか聞かれても、自分でも分からないのだから、説明のしようがない。
けれど、思い当たることと言えば、弱みを握られた鳴神先輩にこき使われているということくらいで。
――きっと、これはストレスに違いない。
「あー、お前、そんな態度でいいのか?」
「はいはい、すいませんでした。今夜は優しい鳴神先輩の奢りで、呑みに連れて行ってくれるんですよね? 遠慮なく呑みまくるんで早く連れてってください!」
自分のイライラの正体にようやく気付くことができた私が鳴神先輩と過ごすこれからの時間へと切り替えたくて言葉を放った筈だっかのだが……。
「バーカ、誰が奢るか。今日はお前の歓迎会だ。呑みまくるのは勝手だけど、あんまり呑みすぎて暴れるのだけはやめてくれよな? お前とコンビ組んでる俺が面倒みなきゃならねーんだからさぁ。ほら、さっさとしないと先に行ってる班長達が首を長~くして待ってんだからな?」
鳴神先輩からそんな言葉が返ってきたため、それを聞いた瞬間、それを楽しみにしていた私はガックリと肩を落とす羽目になった。
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