歓迎会のその後で

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   私が抱えた当初の不安は杞憂に終わり、全国各地から取り寄せられた地酒が売りというこの『超快速』で一番のお勧めだという、産地は忘れたが、なかなか手に入らないという幻のお酒を堪能していた。 「あっれー? 鳴神先輩、どうしたんですかぁ? これって、ウーロン茶じゃないですかー。この日本酒、美味しいですよ? 一杯どうですかぁ?」  実は私の母親の実家が造り酒屋で、親族揃って酒豪のお陰で、私もお酒にはめっぽう強いのだ。  鳴神先輩が下戸だと知り、ほろ酔いの気味も手伝って、いつものごとく調子に乗った私はここぞとばかりに腹黒王子への報復を繰り広げようとしたのだが……。  ウーロン茶をチビチビ飲みつつ豪華な海の幸の盛り合わせを堪能していた鳴神先輩に、 「お前、そんなこと言ってもいーのか? びーえぇ」 と、あっさり跳ね返されてしまったため、 「わー、このお酒、おいしーなー!」 なんて、大きな声で叫びながら、苦し紛れに幻のお酒をグイッと煽ってしまうという、なんとも勿体ないことをして。  鳴神先輩の隣でOB鮫島と一緒に飲んでいた鬼塚班長に、 「あー、こら、珍しい酒で一気飲みなんかするんじゃない! まったく、最近の若い奴らは……」 グチグチと仕事中には見られない厳しい表情をして叱られた挙句、ネチネチと吉沢主任並に愚痴られてしまい。  楽しかった筈の空気が一気に淀んでしまい、美味しかった筈のお酒の味まで損なわれることになった。  そんな私に、長方形の机のちょうど対角線上に位置する場所で下僕と一緒に飲んでいる夏木からお呼びがかかったのは、ちょうどそんなタイミングだった。 「御手洗さーん!」
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