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いつもはあんまり酔ったりしないはずが、今日は初めての捜査で張り切っていたり、鳴神先輩とのことなど色々あった所為せいで、きっと思いのほか疲れてしまっていたのだろう。
送別会が終わるころには、ほろ酔いを通り越して、私は千鳥足になっていた。
「ちょっと、御手洗さん。あなた大丈夫なの?」
「は〜い」
「何が『は~い』よ。フラフラしてんじゃないのよも〜。しっかりしなさいっ! ほら、敬礼ッ!」
メンバーで唯一素面である鳴神先輩がお会計を済ませる間。
店の外では、二次会の算段を始めたいつになくやる気を発揮している鬼塚班長と、それに面倒くさそうに相槌を打っている吉沢主任や筧を放置して。
主である夏木の命令で迎えのタクシーをスマホで手配する下僕、松坂の隣で、夏木に言われるがままにピシッと姿勢を正して敬礼をさせられている私は完全に酒に呑まれてしまっていた。
「はぁい!」
そんなただの酔っ払いと化してしまっていた私が呑気に明るい声で返事を返しているところへ。
ちょうど店から出てきた鳴神先輩が私のことを一瞥するやいなや、それはそれは盛大な溜息を吐き出しているようだった。
とはいっても、久々に酔っ払ってしまっていたため、定かじゃないんだけれど……。
でもきっと、あの鳴神先輩のことだから、『酒呑んで騒ぎまくった挙句、酒に呑まれて様ないな』って呆れていたに違いない。
だけど、コンビを組んでいる以上は最後まで後輩である私の面倒を見なきゃいけないと思ったようで……。
「じゃぁ、俺、コイツのこと送っていくんで、ここで。お疲れ様でした」
「おー、頼んだぞー! お疲れ~」
頗る上機嫌な鬼塚班長を始め、『お疲れ~』と班のメンバーに見送られながら、鳴神先輩にまるで被疑者を連行でもするようにして、酔っ払った私は帰路につくこととなったのだった。
✧✦✧
「おい、てあらい、しっかりしろ。グズグズしてたら置いて行くぞッ」
「はぁい!」
赤ら顔を晒しながら鼻歌交じりに行き交う人波を縫うようにして進んで行く鳴神先輩に引率された私の横をスーツ姿のサラリーマン風のグループの陽気な笑い声が通りすぎてゆく。
鳴神先輩に注意されつつ思い通りに動いてくれない千鳥足をゆっくりと動かす私の呑気な声も、辺りの夜の煌きらびやかで賑やかな街の喧騒に掻き消されていった。
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