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ヒックヒック言いながら俯いたままの状態で、小さな子供みたいに急に泣き出してしまった私の隣で、鳴神先輩も私と同じようにベンチに腰を下ろしたものの、私からは一向に泣き止む気配が見受けられなかったのだろう。
最初は、「今度は泣き上戸かよ」とか言って毒づいていた鳴神先輩だったのだが……。
鳴神先輩の言葉を聞いて余計泣き出してしまう私に、流石にそれ以上、毒づくことはやめて、どうしたらいいのか分からないって感じの鳴神先輩がオロオロと落ち着きなく、羽織っているジャケットのポケットを漁りはじめた。
私は泣きながらに、うんともすんとも言わなくなってしまった鳴神先輩の様子が気になって、隣に座る鳴神先輩の方へチラリと視線を向けてみれば……。
ちょうどポケットからお目当てのモノを探り当てたらしい鳴神先輩と視線がぶつかってしまって。
途端に気まずくなってしまった私が元通りに自分の膝へと視線を固定して、俯いたままでジャケットの袖口で涙を拭おうとした瞬間。
何故か、隣の鳴神先輩の手がスッと伸びてきて、私の手首はあっけなく拘束されてしまった。
途端に、私の心臓はありえない速さで、ドックンドックンと鼓動を打ち鳴らし始める。
私は泣くのも忘れて、けれど自分の動揺を鳴神先輩に気取られたくはなくて……。
「な、なんですかっ!?」
つっけんどんな声を放つことしかできない。
そんな私の心情を知ってか知らずか、鳴神先輩は、フッと優しい微笑みを携えたあの王子様スマイルで、皴ひとつない綺麗にアイロンがけがなされているであろう、ハンカチを差し出してくれている。
「袖で拭いたら赤くなるだろ? ほら、ハンカチ」
それだけじゃなく、今まで耳にしたこともない様な、途轍もなく優しい声というオプションまで付いている。
――こんな時にズルイ!
そんな表情も声も、今まで一度も向けてくれたことも、かけてくれたこともないクセに!
そんな王子様スマイルや優しい声なんかで誤魔化されないんだから!
昼間のあのキスの一件のことを、かなり根に持っていた私は、鳴神先輩の優しさに素直にはなれなかくて。
私はとうとう王子様仕様の鳴神先輩の腕を乱暴に手で払いのけてしまうのだった。
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