361人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
いつもいつも男に間違われていたけれど、痴漢に間違われてしまうなんてこと、今の今まで一度もなかったーー。
ただただ項垂れたまま身動ぎできずにいる私のショックは相当のモノだったのだ。
それなのに、心をズタズタに切り裂かれてしまった私に、まるで追い打ちでも掛けるようにして、現在の時間を放った直後。
「痴漢の現行犯で逮捕する」
そんな非情な言葉が耳に流れ込んできた。
そして、次の瞬間には、項垂れる私の姿に構うことなく。
若い女性に掴まれていたはずの左手首には、さっき私がついうっかり王子様のようだ、なんて思ってしまった警察官によって、無残にも冷たい手錠がかけられてしまうのだった。
ーーまるで刑事ドラマのワンシーンのようだな。
なんて他人事のように思ってしまう刑事ドラマ好きの私だったのだが……。
そのお陰で、私はようやく正気を取り戻すことになる。
それどころか、さっきの自分の大失態を棚に上げて。
私のことを小馬鹿にした挙句、痴漢の男であるように言い放ったこの警察官への怒りと悔しさが腹の底から込み上げてきてしまうのだった。
そんな手負いの獣と化してしまった私は、俯けていた顔をガバッと上げて。ジャケットの懐に忍ばせていた警察手帳を取り出すと、私に手錠をかけた警察官の真正面で誇らしげに掲げて見せた。
そしてすかさず、
「この通り、私もあなたと同じ警察官です。痴漢でもないし、男でもありませんッ! 女ですッ!」
啖呵でも切るような強気な口調で、堂々と言い放ってやったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!