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そんなこんなで私は、手錠を掛けられたままで出勤しなければならないという可哀想な事態に陥ってしまっているのだった。
念願かなって刑事になれたっていうのに……。
これじゃぁまるで、警視庁に連行される犯罪者じゃないかッ!
春の柔らかな風が吹き抜ける爽やかな朝。
私はむくれた表情のままで、少し前を颯爽と歩く腹黒王子の長身の背中を重い脚を引き摺るようにして追いかけたのだった。
前を歩く鳴神の姿は、悔しいが、王子さながらに格好いい。
そのため、さっきから女性とすれ違うたびに、毎回と言っていいほどの頻度で女性から放たれる熱い視線が鳴神に注がれている。
私はいま一度、少し前を行く鳴神の姿を頭のてっぺんからつま先までを眺めてみた。
警察官を意識しているかは不明だが、柔らかそうな黒髪はすっきりと短めで、涼しげな切れ長の目元を際立たせていて。
鼻筋もスッと通っているため、全てのパーツがバランスよく収まった端正な顔立ちは、より一層、凛々しく見えるし。
しかも、微笑みを浮かべた王子様の表情は、二重の瞼に縁どられた瞳が甘く柔らかに細められていて、ついうっかり見惚れてしまうほどのオプションまで付いているだなんて……。
――あんまりだ! 不公平すぎる!
いつもいつも男と間違われてしまう可哀想な自分と王子との天と地ほどの違いに、酷く落胆してしまった私のテンションは、とうとう地下深くにめり込んでしまった。
こうして、警視庁への記念すべき初出勤は、私にとって、最悪なものとなってしまったのだった。
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