歓迎会のその後で

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歓迎会のその後で

 鳴神先輩に奢ってもらったドリンクで一息ついた私は、鳴神先輩の指示通り事件のあった邸宅の周辺や被疑者が下見に訪れていたという例の緑地公園周辺での聞き込みを済ませて。  警視庁の数年前まで資料室に使われていたという特別捜査班へと戻って来たのは、午後六時を回った頃だった。  鳴神先輩に掛けられた手錠を気にしつつ、班の設けられたこの部屋に初めて脚を踏み入れた時には、本当に留置所にでも連れてこられたんじゃないかと思ったくらい、他の部署と隔離された辺鄙(へんぴ)な場所に設置されている。  周辺には、資料室や遺留品を保管してある諸々の部屋があるだけで、人の気配のない寂しいエリアだ。  戻って来たのが黄昏時のせいだろうか、エレベーターから降りた私は、鳴神先輩と一緒に窓の外に広がる景色と同じ黄昏色に染まる人気のない廊下を歩きながら、なんだか寂しい気持ちになってしまうのだった。 「戻りました~!」  そんな寂しい気持ちを払拭するために、元気な声を出しながら鳴神先輩に続いて部屋へと入ったのだが……。  一日の大半を書類整理や緊急を要さない案件に取り組んでいる暇な部署なため、キッチリ定時で帰ることができてしまう班のメンバーは、当然のことながら誰一人として残っていなかった。  そんな部屋はもぬけの殻で、シーンと静まり返っている。 「バーカ、定時過ぎてんだから誰もいねーに決まってんだろ? ほら、さっさと今日の書類まとめて、俺らも呑みに行くぞ」 「わーい!」 「お前、ホントに現金なヤツだなぁ」 「へへっ、それほどでも」 「いやいや、別に褒めてねーしっ!」 「鳴神先輩、パソコン準備完了です!」 「人の話全然聞いてねーし! はぁ……。分かったから、急かすな」 「はーい!」  そこをすかさず鳴神先輩に突っ込まれたのだが、鳴神先輩の最後に放った『飲みに行くぞ』の言葉に、さっきまでの寂しさなんて忘れて、私は張り切ってノートパソコンに向かうのだった。  脳内お花畑を繰り広げていた私は、鳴神先輩の言った『俺らも』という言葉には少しも気づいてなどいなかった。  それどころか、鳴神先輩に何を言われようが、脳内で自分に都合よく変換されてしまっているため、テンションはドンドン上がっていくばかりだ。
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