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――あっ、分かった。これはきっと夢だ。そうに違いない。
肝心なことを何一つ思い出すことの出来なかった私が強引に結論付けようとして、自分の頬を思いっきり抓ってみるも……。
勿論、夢である筈なんかないため、思いっきり抓った頬は当然ジンジンと痛むだけだった。
けれど夢だと信じ切っていた私は、手加減することなく抓ってしまっていたため、「いったーーいッ!!」と叫んでしまった所為で。
まだ心の準備も何も整っていない状態だというのに、隣で気持ちよさげに眠っていた鳴神先輩を起こしてしまうという大失態を犯してしまうのだった。
「……ん? てあらい。お前、何やってんの?」
騒がしい私の声により安眠を妨害された鳴神先輩は、特に何も動揺することもなく。
グーンと両手を高らかに伸びをすると、痛い頬に手を当て半べそ状態だった私の様子を見やりながら呑気な声を放って、朝の爽やかな空気にも負けないくらいに爽やかな微笑みを浮かべている。
そんな鳴神先輩の王子様スマイルを寝起きに食らってしまった私の視線は、鳴神先輩によって釘づけにされてしまった。
……のは、ほんの一瞬のことで、あんなに痛かった頬の痛みも忘れて。
ただただこの受け入れがたい現実から一刻も早く逃れたかった私は、
「な、鳴神先輩、おやすみなさい」
そう言い放ち、捲っていた布団の中に潜り込んで。
「神様、これはきっと夢ですよね? うん。ヤッパリ、そうですよね」
ボソボソと呟く私に、隣の鳴神先輩からは、
「……夢じゃねーし」
なんていう言葉と一緒に、盛大な笑い声まで返ってきてしまい。
現実逃避を試みた私は、夢じゃなく現実であることを思い知ることとなった。
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