始まる旅。

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両手に荷物をまとめて立ち、一年半ぶりに帰省する僕を乗せる列車。 両脇に荷物を置いて座るロングシート。発車まで静かな車内。乗客は他に二人。彩りのない車内を彩るように、車内の前方と後方に腰かける二人。左側後方に座る四十前後の女性。ベージュのチノパンにピンクのブラウス、カーキ色のバック。右側前方には初老の男性。ブルーのジーパンにギンガムチェックのシャツ、黄色のリュックサック。それぞれの首にはネックレスと一眼レフ。 この二人の間に座ったのが僕。青いポロシャツに白いハーパン。黒いスニーカー、黒いバック、黒いメガネ、黒い瞳。見ている物は列車の窓越しに映る地方病院の看板。ホームにいる頃からずっと見ている看板。もう覚えてしまった院長の名前と電話番号。こんな僕でもわからない隣の看板の和菓子屋。半開きの列車のカーテンが隠す、店の名前と電話番号。それがわからないことには、ありつけないあの白い大福。  
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