憎悪からの招待状

2/6
前へ
/15ページ
次へ
 人々の騒然が冷めやらぬ最中、潮は次第に戻り始める。  急激な引き潮は、理に従い、急激な津波となって、別府の街を襲った。  津波は扇状地のように広がる別府の山村をところ構わず、なぎ倒した。  津波は山まで登る勢いで、人も、動物も、妖怪も、森も。  なにもかもを飲み込んで、海へと帰って行った。  残ったのは避難できた数少ない人々と、愛する人を失った悲痛な叫喚(きょうかん)。  我らが依代の石像を離れ、弱る力を振るい、陸に揚がった時には、惨状しかなかった。  そして我らは人の業を知った。  人々から向けられたのは怒りや、憤り。 「何故、守ってくれなかった」 「何の為の守神(まもりがみ)だ」  そして我らは祭り上げられ、神への生贄として人々に捕獲された。  抵抗などするはずもない。  あの頃(・・・)、我らは人の為に生きていたのだから。  しかし運命は残酷に、我らは生贄として火炙りにされる時が来た。  人々の想いを失った我らには、抜け出す力などなかった。  ただ焼かれる遠くない未来を見つめ、哀れんだ。  人とは愚かだと、我らは尊く、人を妬むことなく、逝こう。  こんな世の中、必要ない。  しかし、そこにとんだ横槍が現れた。  その者の名は――――。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加