正月行事

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「あっ、嫌味猫(いやみねこ)」 「んなっ……」  見事な優希の一撃が隠の表情を曇らせる。  隠がいつになく茶化されているものだから、マスターと僕は思わず小さく肩を揺らして隠すように笑った。 「こ、これやから最近の若者は!」  およそ涙目の隠はそう叫ぶとストーブの前の座布団の上に(うずくま)り、こちらを睨んでいる。  犬宜しく、と言わんばかりに今にも吠え掛かりそうだ。 「えっと、隠さんは置いといて……じゃあ今日は帰ろうかな。お正月の準備もあるし」 「そうだね、神棚にはちゃんとした御供え物をするんだよ」 「うん、そうする」  まだ体も暖まらないうちに、珈琲を勢いよく飲み干して、「じゃあまたね」と笑顔で手を振り、僕もそれに応えた。 「気に入らんわ、あの娘」 「そう拗ねるなよ。あれで割と繊細なんだから、今も隠に悪いこと言ったと思っていなくなったんだよ」 「へいへい、2人様は信頼が大層お厚いようで」  過度に癇癪(かんしゃく)を起こしているようなので、これ以上、相手にするのは辞めておこう。  次の日からも、優希は訪れ、何故か隠が突っかかっては、返り討ちにあってを繰り返す他愛もない日々が続いた。  僕はそれが嵐の前の静けさに感じて、心の定まらないような、居場所のないような落ち着きのなさを日々募らせていたが、この日々がどうにか目を逸らさせてくれていた。  
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