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それから日没までそれ程、時間はかからず、いやに明るい夜空が頭上を埋めつくしていく。
赤みが混じっていた紫色の夜空は瞬く間に青ざめるような暗闇へと変貌を遂げる。
1年で最も多忙な時間がやってきた。
「第1号、発見しやした」
隠が耳をぐっと立ち上げて、周囲、というよりは街全体の音を拾い集める。
これが隠の1つ目の特筆すべき能力。
視覚、聴覚、嗅覚が異常なまでに敏感で、街全体の状況を瞬時に把握できる為、司令塔としての役割を担う。
「これは穢れは放つようなやつやない。放置しとき」
「別に行くとか言ってないけどね」
「さようでございますか」
少し屁理屈で返したら、不貞腐れるようにそっぽを向いて、耳を立てる。
「ん。雑魚はそこそこに湧いてきよる」
どうやら今年のスタートは幸先が悪くない。
当然何も起きないことなど、絶対に有り得ない。
実際、僕にも街に常世の存在は感じられる。
だが隠が動かなくていいと言えば、動かなくていい。
今までもそれで問題はなかった。
永遠にも近い長い付き合いだからこそ、そこに関しては信頼している。
余程のことがない限りは隠の指示に従う。
――――しかし、余程の時とは、いつの時代も突然にやってくる。
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