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「おや、こりゃまた懐かしい」
背後から突然の声。
気配など微塵も感じることは無かった。
隠すら気づいていなかったのか、隠がゆっくりと振り返り、やや背後に立っていた僕と目が合う。
続けて僕が振り返る。
こうも2人が気付かないということは有り得ない。
有り得ないはずだった。
しかしそれは当たり前のように背後に立っていた。
「いやぁ、時の流れに身を任せているうちに此処に戻ってくるとはね」
それはひどく聞き覚えのある声。
そして気配に気付かないのは必然だった。
僕の半身。
僕が狛犬の化身なら、此者は獅子。
番にして、失われたはずの兄弟のような者。
幾年もの時間を超えて、再開することなど夢にも思っていなかった。
「翳……」
あの事件から失った僕の半身。
だが地震以降、記憶が曖昧で思い出せないでいる。
あの時、なにが起こったのか。
なぜ僕だけが残されたのか。
もしくは他に残ったものがあったのか。
なにより知りたかった。
僕の中の途切れていた時間が、今ここに立っていた。
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