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両手で抱えた樹脂製箱のなかには切断された手足が入っていた。湿っぽい空気がよどむ金臭い廊下は薄暗く、重い箱を運ぶ足どりは慎重だった。
「親方さま、持ってきました」
彼女は開け放ったドアから目の覚めるほどに明るく灯された部屋へと入ると、会議机ほどの大きさの作業台に向かっている男の背中に声をかけた。
「おう、ここへ置け」
振り向きもせず、一人で作業に集中する小柄な男は横柄な口調で命じる。あちこち擦り切れて垢じみた灰色の作業服を着た浅黒い顔。五十代ぐらいだろうか。神経質そうな眼つきで工具を動かしている。
「はい、親方さま」
華奢な体躯に似合わぬ動作で、言われたとおりに箱を作業台の上に置く。まだあどけなさの残る顔立ちは少女といってもよかったが、彼女は人間ではない。
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