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心地よいまどろみに体が沈みかけた時、ふと影が落ちてきて、フェルザーは目を開けた。
すぐ目の前に一人の兵士が佇み、自分を見おろしていた。表情が判らないのは、逆光のせいばかりではなかった。なんの感情もない、むしろ仏頂面といっていい。
「……何してやがる」
問うてきた声は低い。
「あ、ああ……疲れたので、少し休もうかと」
「ここは部隊長の部屋から丸見えだ。こんなとこで寝そべってると、たとえ士官でも罰せられるぞ」
兵士の思いがけない言葉に目をまるくし、慌てて立ち上がった。
「いや、知らなかった。忠告ありがとう」
逆光でなくなった兵士は、随分と若く見えた。身長が自分の肩ほどしかない為だけではない。切れ長の目も、苦々しく寄せられた眉も、まだ幼さを残している。長めの銀色の髪が、さらさらと微風に揺れていた。
「ここに来たばっかりか」
薄い唇から紡がれる声は、愛想というものがまるでない。
「今日で5ヵ月目だ」
「少尉か」
「ああ──」
その時、ふとフェルザーの目が兵士の背中に留まった。
人間にはある筈のないもの──白銀に輝く翼が、体にピタリと沿って折り畳まれていた。フェルザーは思わず息を呑んだ。
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