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「スパルナ族……」
口のなかで呟いたつもりの言葉は意外に大きく、兵士の耳にもしっかり届いた。
「ああ。5ヵ月目にして初めて見るか?」
「訓練場でも、食堂でも、廊下ですれ違った事さえなかったな」
「食堂は人間とは別だからな」
声の調子は変わらない。だがそこに、ほんの微かに自嘲が加わったように感じた。
「風呂も寝床も、公共とされる場所はみんな別に作られてる。綺麗な場所は、人間様と一緒には使わせられねえって、不潔な鳥類には」
フェルザーは返答に詰まった。
飛ぶ能力を買われて、スパルナ族はここにいるのではなかったか? 名誉貴族という称号を与えられて軍籍に入り、兵士の一員として生きているのでは?
「話しかけて悪かったな。伝えたかったのはそれだけだ」
「待ってくれ」
踵を返しかけた兵士に向かって、反射的にフェルザーは手を伸ばしていた。
「君……君は、いいのか、それで」
兵士の眉間の皺が一層深まった。
「仕方ねぇだろ。まあ、ここは食うのに困らねぇし、やわらかいベッドもある。居住区の連中からしたら、夢みてぇな場所だろうよ」
「だが──」
「しつこいヤローだな。俺とお喋りしてんのを誰かに見られたら、テメエの頭に鶏冠が生えてくるって、ここにいる限りずっと馬鹿にされるぞ」
「……」
「そんなんで指揮官なんかつとまるかよ。誰ひとり言うこと聞かねぇぞ」
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