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フェルザーは重々しくため息をついた。
スパルナ族とは、人間とラクサーシャの垣根を越えて、ともに戦う仲間ではないのか。なぜ軍の内部でこんな差別を受けなければならないのだ。それとも、差別されても仕方ない何かがあるのか、ラクサーシャであるという以外で。
「君……名前は?」
不意に問われ、兵士は驚いたように僅かに眉を上げた。
「鳥なんざにわざわざ名前聞くヤツなんか──」
「いいから、名前は?」
「……アデルだ。アデル・リュークヴィスト」
今度はフェルザーが驚く番だった。
こいつが。
こいつが、猛禽類と称される男。小柄で、一見すると虫も殺さないような、優美な雰囲気であるのに。なのに猛禽類で、そして──
そう、人間ではなく猛禽類なのだ、勇敢で獰猛な、肉食の鳥。腹が空けば死人の肉さえ喰らうような奴ら。
「猛禽類のリュークヴィストか」
フェルザーは、忌々しげに眉を顰めた。
「確かに獰猛な鳥と一緒に食事など、考えたくもない。生肉を食うのだろう? 目の前でそんな食事をされたら、食欲などなくなってしまう」
「……公共の場は人間とは別だって言ってるじゃねぇか」
ふん、とフェルザーは鼻で笑った。
「ああ、有り難いよ。だがアデル、君は私に話しかけた」
「謝っただろ」
「君と話す事で、伝染ったりしないか? 明日の朝、頭に鶏冠が生えていたら困るんだが」
ゆっくりとアデルはフェルザーに向き直った。表情は変わらない。むしろ、さっきまでよりも静かだ。
「安心しろ。生えた鶏冠は、俺が責任持って切り取ってやる」
「いや、できれば私には触らないでほしいな」
アデルの存在そのものを拒絶するかのように腕を組むと、歪んだ笑みを浮かべた。
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