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「まったく、政府も何を考えているんだか」
背をモクレンから離し、フェルザーはゆっくりと歩きだした。アデルの視線が全身に突き刺さるのを感じる。
「たとえ天使のような見てくれでも、スパルナ族だってラクサーシャなんだ。数だって多くないのだから、居住区内に檻でも作ってそこに閉じ込めておけば、軍の内部がこんなややこしい事にならずに済むのに」
「……」
「君だって、人間のように話してはいるが、半分は獣の血が流れているのは隠せないな。その目……常に獲物を狙う目だ」
「……」
「君の仲間が住む居住区に行った事はあるか? 居住区に近付くだけで、ひどく臭うそうだよ。夜な夜な遠吠えが聞こえたりするそうだ。獣はしょせん獣でしか──」
「黙れ」
静かな、だが毅然としたアデルの声に、フェルザーは立ち止まってアデルに顔を向けた。激昂しているかと思ったが、アデルは変わらず何の感情も表していなかった。
「俺の事をあれこれ言うのは構わねえ……テメエの目の前にいるから、いくらでも反論できる。だが居住区にいるヤツらについては駄目だ。テメエの勝手な憶測が誤解をよんで、くだらねえ尾ヒレがついて国じゅうの人間が更なる偏見を──」
アデルは最後まで言う事ができなかった。突如フェルザーが、両手で力強くアデルの肩を掴んできたのだ。
「何しやがる」
思いきり眉を顰め、体を捩るが、フェルザーの手はびくともしない。
「俺に触るな。鶏冠が生え──」
「力になってくれ、アデル」
「……はあ?」
「私は常々疑問に思っていたんだ。半分流れる獣の血にばかり、なぜこだわるのだろうかとね。君は、君たちへの不当な扱いを受け入れているような態度だったが、だが君の根底には、差別への強い怒りがある。違うか?」
「テメエ、さっきと言ってる事が──」
「悪かった。君を試した」
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