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アデルはもがくのをやめて、じっとフェルザーを見上げた。自分をまっすぐに見つめるフェルザーの碧の双眸には、強い意思が込められているように見えた。
「私たちで、世界を変えていかないか?」
あまりに突拍子もない言葉に、アデルはぽかんと口を開いた。何を言い出すんだ、この金髪野郎は。
「まずはこの駐屯地から……スパルナ族への差別をなくして、同じ兵士、同じ仲間だという事を人間どもに浸透させる」
「おい……」
「アデル、君は今日から私と寝食を共にしてくれ。訓練にも必ず顔を出すように」
「いや待て、そりゃマズイだろ」
「まずい? なぜ」
「スパルナ族を人間の兵士と分けるのは、総司令官様直々のお達しだ。それを破るのは規律違反に──」
「そんなくだらない規律など守る必要はない。それを破る事で、士気が低下するか? 敵国に負けるか?」
立て続けに問われ、アデルは少しずつ頭をのけぞらせた。フェルザーの言いたい事は解る。だが実際には、そう簡単な話ではない。感情というものは存外根深く、そして面倒なものだ。
「……そういや、テメエは何て名だ?」
「ジークヴァルト・フェルザーだ」
「そうかテメエが……。百伶百利の将来有望な士官だと噂されてる。その明るい未来をこんなくだらねえ事で潰すんじゃねぇよ」
「私の未来を勝手に決めつけないでくれないか」
のけぞればのけぞるだけフェルザーが顔を近付けてくるので、劣勢を認めるようで癪だが、アデルは顔を逸らした。
「君の噂も聞いている。猛禽類というのは、言動が粗野という事だけを揶揄している訳ではないのだね。身体的に、非常に優れた戦闘能力を持つと」
「この気持ち悪い翼があるからだろ」
「自分を卑下するのはよせ」
「さっきからテメエは命令ばっかだな」
「君の上官だからな」
「上官としての命令かよ。クソだな」
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