翼あるもの

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 ラクサーシャ、と呼ばれる半人半獣の種族がいる。ある者は山羊のツノが生えていたり、ある者は馬の脚を持っていたりと、その風貌は実にさまざまだ。  彼らは人間と同じように言語を操り、言葉によってコミュニケーションをとる。服を纏い、身なりも整える。知能的には人間となんら変わるところはない。  ただ、彼らの中に流れる獣の血が、人間たちを恐れさせた。何かのきっかけで理性を失い、野獣と化すのではないか──たとえば激怒した時などに。  これまでラクサーシャが凶暴化したという報告は上がっていない。だがこれからも凶暴化しないという確証はない。  人間は「万が一」を恐れていた。そこで人間がとった行動は、ラクサーシャを居住区なる場所にまとめて住まわせる、言い換えれば隔離政策だった。  国内に4ヵ所「居住区」を作り、居住区の周囲を鉄条網で覆った。抜け出す者がいないか、凶暴化した者はいないか、1日に数度、憲兵隊によって巡視が行われた。  それは現在に至るまで、およそ60年以上続いている。60年間、政策に対する不満からの暴動が起きる事なく静かなのは、もともとが穏やかとされるラクサーシャの気質のせいであろうか。  ジークヴァルト・フェルザーが家の慣習に倣い憲兵隊に入隊する年齢になった時、監視するばかりの憲兵隊ではなく軍の士官学校の道を選んだのは、ラクサーシャの隔離政策に対して疑問を持っていたが故であった。  初等学校から教えられてきた──ラクサーシャは野獣化する危険があると。だが、果たして本当に野獣化するのだろうか。そうした事実が、疑惑を持たれてしまうような事実が、かつてあったのだろうか。憶測だけで居住区に閉じ込めているのではないか。
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