1.君の秘密

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 たまたま近道をしていただけなのに、異常な光景に遭遇してしまった。  早く、病院へ帰らなければならないのに。  驚愕に見開かれた瞳の中には、たったいま目前で空から『降りてきた』ばかりの男が、悪戯な笑みを浮かべて映っている。 「よォ、にいちゃん。こんばんは」  路地裏を歩いていたこちらを狙ったように降りてきたこの男は、目が合うなりヒラヒラと手を振って笑った。  何気なく、不意に見上げた高層ビルの谷間に、その男は降りてきた。  闇の中から、小さな粒が人型になり、みるみる大きくなって、音も無く地に足を着けたのだ。  瞬くような間だった。 「な…あんた…ど、どこから…」 「上だよ、上!このビルの屋上!…おっと、まだ来るぜ?」  親指を上向け、空を指し示す。首を傾げるように上を見て、こちらに向き直る。 「まだくる…?」  問いかけが終わるのが先か、少年が暗闇の中空からストン、と小さな音を立てて降り立った。 「え…え、え!?」  体勢を整えて、少年が胸ポケットから取り出した眼鏡が光る。 「そこにいるのは…町谷さんと…あれ?どなたですか?」 「新顔だよ。さて、坊ちゃんが三人と、もう一人。さて…そんなに睨むなよ、なあ?」  非常事態に巻き込まれた少年は、睨むなよ、と問われても何の事か分からないでいた。  細い路地には四人の人影。だが、少年の正しい視力では三人しかいなかった。  蓮亀には、見えていた。怯える少年の前に立ち塞がる黒髪の青年。 「変だろ?こいつには、このおっかない顔した兄さんが見えてないみたいだぜ?」 「だ、誰が?」 「見えてない…?術士じゃ…あれ?君、霧島くん?」  薄明かりの中、二、三歩と近付くと、蓮亀は驚いたのか若干高い声を上げた。 「なんだ、知り合いか?」 「!!…ま、松前くん…?」
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