運命とは、つくるものらしいです。

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「苦手なタイプはうるさい男。初恋は六歳で幼稚園の先生。中高とずっと好きだったのはサッカー部のエースで、初めて彼氏が出来たのは高校三年生で同級生。大学二回生の時に遠距離からの自然消滅で別れて、それ以来彼氏はいない。会社で仲良いのは同じ総務部で同期の伊藤さん。田崎部長が苦手で、先輩の池田さんはもっと苦手。社食でよく食べているのは、天ぷらそば。あまり自炊はしない。いつもデスクに置いてあるのは、マウントレーニアのクリーミーラテとグミ。コーヒーが苦手で、帰りに伊藤さんとよく寄るスターバックスではもっぱら抹茶フラペチーノ。最近ハマっているお菓子は、コンビニのチョコがけマシュマロ。普段使っているシャンプーは行きつけの美容院のオリジナルで――」 好きなもの。 嫌いなもの。 癖、習慣、昔のこと、今のこと。 絶え間なく落とされ続ける言葉の洪水に、脳内処理が追い付かない。明らかな容量オーバーに、わたしの欠片たちが頭の中で大渋滞を起こしている。 ――偶然だね。これからよろしくね。 引っ越してきた日、わたしの部屋に挨拶にきた久坂さんは、いつもの王子様な微笑みで言った。 お盆とお正月と誕生日とクリスマスがいっぺんにやって来たみたいな出来事に、わたしの頭の中は大騒ぎで、口をぱくぱくと動かすだけでまともに返事も出来なかった。 そんなわたしに彼が渡したのは、可愛い飾り箱に入れられた最近日本初上陸したばかりのクッキー専門店の詰め合わせ。 もったいなくて食べることが出来なくて、パスケースと一緒に今も棚に並んでいるそれは、ちょうどわたしが食べたいと職場で話していたやつだった。 偶然隣に引っ越してきて、偶然食べたかったものをもらって、偶然鍵がなくて呆然としている時に鉢合わせて、偶然昔の彼女といるところを目撃して、偶然久坂さんといるところを苦手な先輩に目撃されて、偶然大雨のなか泣きながら帰っている時に出くわして。 偶然……偶然?
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