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彼の座っていた席へと戻り、バッグから専用のレースのハンカチを取り出す。
繊細な彫刻が施されたデザートスプーン。素手で触れないように、ハンカチを使いそっと摘み上げた。
シャンデリアの光に翳すと、磨き込まれたシルバーが輝く。
感嘆の吐息が口からこぼれ落ちる。
自分のものになったそれに、高揚感が胸のなかいっぱいに広がる。
これで、100個目。
キリのいい数字って、なんでこんなにテンション上がるんだろう。
――全部知りたいんだ。好きになった子のこと、全部。
幸福感に浸っていると、つい先ほど言われた彼の言葉が戻ってきた。
デザートスプーンをハンカチに丁寧に包み、胸に抱き抱える。
「……うん、わたしも」
わたしも、全部欲しい。
あなたに触れたもの。
あなたが触れたもの。
あなたのもの、全部。
500個。1000個。10000個。
これから彼と一緒に過ごしていく中で、きっとそれはどんどん増えていく。
今はコレクション用の棚に飾っているけど、じきにいっぱいになってしまうだろう。今度の休みに、大きい棚を見に行こうか……ううん、トランクルームでも借りよう。
すぐ側に置いておきたいのは山々だけど、これからはもう部屋には置いておけない。確か、家から割りと近い場所に最近出来たはずだ。
そこなら、いつでも眺めに行ける。
「ふふっ」
これから広がっていくであろう未来に、口元が緩む。
包んだハンカチをバッグへとそっと仕舞い、足取り軽く彼を追い掛けた。
―END―
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