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猫のアルフレッド
猫のアルフレッドは、いつもいっぴきぼっち。
気づいた時には親はいませんでした。
いっぴきぼっちのアルフレッドに手を差し伸べる人間はひとりもいなかったのです。
世界はとても魅力的なもので溢れていました。
でもアルフレッドには何一つ手にはいりません。
「どうしてボクは生まれてきたの?」
アルフレッドはこの世界が大っ嫌いでした。
ある日、アルフレッドは白猫に出会いました。
アルフレッドは一目で白猫が好きになりました。
アルフレッドは白猫に近づこうと色んな手を尽くしました。
「アル。もうすぐ着くぞ」
アルと呼ばれた少年が車の窓ガラスを降ろす。
すると、磯の匂いが鼻を掠めた。目の前には海が広がっている。丁度、太陽が顔を出した頃だった。
「アルはその本が大好きだなぁ。そんなに読んでて飽きないのか?」
「お父さん、キラキラしてる」
アルの瞳には、キラキラ輝く水面が映し出されていた。
猫のアルフレッド 一話
AM7:00
目覚ましのアラームが鳴ると同時にストップボタンを押す彼、宮下(みやした)登(のぼる)は、二度寝の体勢に入ろうと寝返りを打った。同時に部屋のドアが勢いよく開く。
「登、朝よ!今日のオムレツは母さんの自信作なの!早く起きて食べて!ほら!ご飯食べる時間なくなちゃう!」
思春期の息子の部屋にノックも無しに入る母、悦子にイラッとしながらもしぶしぶ上体を起こす。
「部屋に来るときはノックしろっていっつも言ってるだろ」
「え~だって早くオムレツ食べて欲しかったんだもん」
「だもん じゃねーよ。思春期なんだよ俺は」
「大丈夫!母さん何を見ても動じない自信があるから!」
何をみられては登の方が動じてしまうかもしれないということを考えない悦子はオムレツを食べて欲しくて息子を強引にリビングへ引っ張っていく。いつもの光景だ。
登の席には、綺麗な形で美味しそうなオムレツが置いてあったが、表面にはケチャップで顔が描かれていた。隣にこれまたケチャップで のぼる と描いてあることからこの絵が登を描いてあることがわかるが、登の顔は不機嫌だ。フォークで何度も自画像らしき絵を突き刺した。
「ひどい!自信作なのに!!」
「似てねぇんだよ。卵は美味いけど」
「・・・味は褒めてるみたいだから許す!」
登が眉間に皺を寄せながら卵を食べてると、つけっぱなしのテレビから元気な女の声が聞こえる。登が大好きな女子アナの薙(なぎ) 美咲(みさき) だ。 今日も胸がでかいな と不埒な視線を送っていると悦子がつぶやいた。
「今朝はこの話題でもちきりなのよ~」
「この話題って?」
薙アナの胸しか見てなかった登が聞き返す
「なんか、この前、なんとかって人がなんとか細胞を使って人の臓器を再生させることに成功したでしょ?ほら、新しく見つかったなんとか細胞。あれが最近使えるようになったでしょ?あれを使って再生させた臓器を、どっかの皇子様に移植するとかなんとかかんとか」
「すげぇ解りやすい解説をありがとう」
「だってかあさんもちんぷんかんぷんなんだもん~」
「もん とかつかうのやめてくれね?」
登が視線を悦子に向けると、悦子の後ろにある窓から子供が見えた。登よりも年下で、小学生くらいだろうか。ブロンドヘアーに透き通るような白い肌の子供が、庭の草や木や花に水をやっていた。
「お隣さん、昨日越して来たのよ~」
可愛いわよね~ なんて頬を赤く染めている悦子。子供は水で虹を作ろうとホースを振り回して頭から水を被っていた。その動作を冷ややかな目で見つめる登。庭に面した窓から父らしき男がタオルを持って出てくる。
「外国人?女?」
「男の子ですって。外国人だそうよ。お父さんは日本人っぽかったけど」
「ふーん」
「のーぼーるーくーん。行-こ~」
「やべっ圭介だ」
玄関で圭介が何度もインターホンを鳴らす音は、庭で頭を拭いてもらっていた少年にも聞こえていた。少年は隣の家の玄関で、自分よりも大分年上の男の子ふたりが仲良さそうにじゃれあいながらもどこかへ出かける姿を見ていた。
その瞳はキラキラ輝いている。
夕方。日も沈みかけ、登の影を細く長く伸ばす。
明日から登たち学生は、夏休みが始まるということで、とても機嫌よく鼻歌を歌いながら帰路に就いていた。今朝、悦子に冷たく当たっていた姿とは正反対だ。思春期はとても不安定なのである。家に到着し、玄関のドアノブに手を掛けたとき、登は知らない声に呼び止められた。振り向くと、今朝見た隣の少年が立っていた。
「ノボル!ぼっ僕と友達になって欲しいんだ!」
「は?なんだよいきなり」
「あっもうこんな時間。お父さんが帰って来ちゃうからまたね!」
「え?俺はまだ何も」
不機嫌を隠さない登に動じることなく、慌ただしく帰っていく少年は、何かを思い出したかのごとく、途中で折り返してまたパタパタと戻ってくる。
「忘れ物か?お前の忘れてるものなんて敬語くらいしかねーだろ」
目の前まで戻ってきて、深呼吸をする少年。
「僕の名前は、アルフレッド。アルって呼んでね!」
そしてパタパタとまた帰って行く。自分家の玄関までたどり着くとぶんぶんと手を振って またね と叫んで家に入る。
「本当になんなんだ?」
「いいじゃない」
「母さん!いつからそこに!」
悦子はいつの間にか開けた玄関のドアから覗いていた。
「アル君、登が帰るまでず~~~っと待ってたのよ~」
悦子を無視して家の中に入る登。その態度に臆することなく悦子は登に食い下がる
「お隣さん、ひと夏だけここで過ごすんですって!友達になってあげなさいよ~。登、彼女いないし夏休み暇でしょ?」
「どうせ彼女いねぇよ!!!てか近ぇ!」
登は悦子を押しのける。
「もー!暴力反対!!登のハンバーグには目玉焼きのっけてやらないんだからー!」
「それは困る!」
「だったら謝って」
「・・・・」
「きこえなーい」
「押してごめん!」
「許す!」
いつものように騒がしい宮下家の隣では、アルが玄関でヘタっていた。
「どどどどうしよう、変じゃなかったかな。ちゃんと言えたかな」
アルの表情は不安でいっぱいだ。
「友達に、なってくれるかなぁ?」
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