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本日3月14日。まだ朝寒いけど毎朝シャワーをあびて、6時56分ジャストで家を出るのがオレルール。
あったかジャンパーの下はもちろん半そで。よっしゃー行くぜ。準備万端。
昨夜せっせと作ったブラウニーには、ホワイトデーらしく白いシュガーをふったんだ。
女の子が好きそうなキャラのふくろにつめて完成! オッシャレー
ネグセなし!
忘れ物なし!
「イッテキマース!」
今日も一番めざし、かけだした。
□
やべーよ、後ろからヒタヒタと宿敵清水と、右の道には強敵北野と左の道には森まで見える。
負けてられん。1番はオレだ! 立体機動装置スイッチオン!
ランドセルの教科書がドカドカうるさくはねた。
げんかんの前に立つ教頭先生に、イェーイ!いっちばーん! とハイタッチして、
「おはよう。神保くん今日も元気だね」
「おはよーございまーす」
天井からぶら下がる「ろう下は走らない」のプレートにも、ハイジャンプ。
5年1組の教室の電気はもちろんオレがつけたのだった。ピース。
□
教室のどまん中の席で、すばやく足を組み、ゆうゆうとくつろぐ社長ポーズ。
ドタバタと2番、3番、4番がつづいてやってきた。
「キミたち、おそよう」
「フン。ドヤ顔すんな。みたよ、みたよ、みたよ! ユッキーの……
これっ!!」
はぁぁぁぁぁ???
そ、それは、オレの、オレ様の、手作りブラウニーが入ったパステルカラーの紙ぶくろ。
つまり、来年のバレンタイン予約チケット。
ランドセルの中を見たら、あるはずのふくろがない。ない。ない!
げ
落としたか。
「うぉいっ! 返せ!!」
「やーだね。おーい、みんなー。
ユッキーが学校にお菓子持って来てるぞー」
くるみちゃんも混乱状熊……またまちがえた、態の教室にインしてきてヤバい。
「おいふざけんな! 返せよっ!」
「何が入ってるのかな~」
オレと清水のタイマンにギャラリーがふえてきたところで、やっとふくろをガシッとつかまえた。
しかししょせんは紙ぶくろ。力ずくでひっぱったら、すみっこでくらす小さなキャラたちの絵が、
ビリ…
一つ一つラップでていねいに包んだブラウニーが床に、
ポト、ポト、ポト…
「おはよう! 朝から賑やかだなー」
先生のデカイ足が
グニュ…
「おや何か落ちて……
あ、手紙がある。なになに……『くるみちゃんへ』」
その後クラス中が爆。
からかわれまくったくるみちゃんは、二度とオレと口を聞いてくれなくなった。
清水。コロス。はい、けってー。
ユッキーってくるみちゃんのこと好きなんだってー
マジでー
あっという間に、となりのクラスの女子たちにまでうわさが広まった。
おわったよ。
オレの来年のバレンタイン……。
□
となりの席はクラスで一番かわいい鈴音ちゃん。
清水が好きとか言うから手を出さなかったが、それも解禁でいいよな。クソー。
「鈴音ちゃんの消しゴムかわいいじゃん。においつき? ちょっとかしてー」
「いいよ。ねー、朝から災難だったね。踏まれたお菓子捨てるの?」
「いや、先生に責任もって食べてもらう。オレの手作りを先生が食べるのもキモイけどな」
「手作りー? すごいね」
「ふつうじゃね?」
キマった。オレの手札「料理男子」の効果は高い。
「みんなー、大事な知らせがあるから静かにしてー。
今日、5年1組に転校生が来ます。連れてくるから、騒がないで漢字ドリルの14番をノートにやっといて。後で提出してもらうからまじめになー」
先生はオレのブラウニーをもって、しょくいん室に姿を消した。
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