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「ただいまー。今日転校生来たよ」
ランドセルをおいて、着がえたオレをお母さんがげんかんで通せんぼ。
お母さんのおなかはバスケットボールより大きくなった。
「へー、この時期に。男子? 女子?」
「女子。まあまあだった」
「かわいい子なんだ」
「鈴音ちゃんの次くらい。じゃ、イッテキマー」
「ストップ。宿題は?」
「帰ったらすぐやるって。清水たちまたせてるから行かなきゃ。6時に帰る!」
マイボールとマイシューズをもって走った。
ほんとうはまたせてない。オレがよびに行くんだ。
最近お母さんの顔を見たらイライラする。
本当に母親なら分かってくれるもんじゃないの?
オレ中のまっ黒がまた大きくなる。
ひまさえあれば友だちとバスケばっかりやってるのは、腹黒い自分がいやだからだ。
□
バスケ友だちの中でも、安原はうまい。
オレのディフェンスをターンでかわし、あっさりレイアップシュートできめられた。
くやしーなー
ジャンプ力じゃ負けねーのになー
身長のばしたい。
なんでオレは前から3番目なんだ。
宿題やる前に牛乳をいっきのみした。
背が高くなったらぜったいモテる
バスケがもっとうまくなる
上から目せんで清水を見下せる
ほらな。いいことばっかだ。
だから早く、
背の高い両親の子どもだって証明をオレにくれよ。
□
転校生は、中山さよみちゃん。
清水と山崎と帰ろうとして、教室にぽつんと一人でのこっているさよみちゃん、かわいそうだと思った。
たぶんまだいっしょに帰る友だちがいないから。
「よ。家、どのへん?」
「マンション」
「体育館近くの新しい? じゃあいっしょに帰ろうぜ」
「うん」
まだきんちょうしてるのかな、もっとわらえばいいのに。
さよみちゃんは、おとなしそうな子。
いやどうかな。女子にありがちな、なれてきたら本性出して毒はくタイプだったりして。
帰り道は清水と山崎がいつもよりテンション高い。
清「さよみちゃんは何号室?」
さ「教えちゃダメって、お父さんとお母さんが」
清「サイキクスオの能力使うか」
オレ「それってまんま、クウガの第三形熊だよなー」
シーンとして山崎がぽつんと聞いてきた。
山「なに、それ」
オレ「だからクウガのさ、第三形熊…ちがってた、第三形態。緑色の」
山「なあ清水、サイキクスオって、アニメ何曜日だっけ」
軽くオレをハブりやがった清水と山崎にバイバイ。さよみちゃんはオレと2人になると、とたんにクスクスわらい出した。
「クウガって知ってるわよ。緑色はペガサスフォーム」
「それそれー。古い特撮ヒーロー、オレだいすき。もしかしてさよみちゃんも?」
「うん。ふふふ……でも君には敵わないと思う」
「あ、オレ神保。でもユッキーでいいよ」
「じゃあ、ユッキー。
今日はありがとう。うれしかった」
「おー。また明日な」
きっとオレがクラスで最初にさよみちゃんをわらわせた。やったぜ。
来年のチョコは、さよみちゃんにおねがいしよう。これでキマリ。
□
「中山さんって、給食じゃなくてお弁当なんだ?」
「……アレルギーがあって」
給食の時間。
机の上に一人だけ弁当を出したさよみちゃんは、小さく答えた。
みんな興味しんしんでさよみちゃんの弁当を見に集まってきた。
好きなおかずばっかり食べられていいな
給食当番やらないのずるいな
食べられないものがあるなんてかわいそう
食べたらどうなるの
死んじゃうの
「こらー、給食当番は自分の仕事やりなさい。当番じゃない人は手洗いして席につく」
「せんせー、中山さんはなんで給食じゃないんですかー?」
「5時間目の道徳でその話をするから、今は給食の準備に集中して」
ガヤガヤした声はヒソヒソした声になった。
さよみちゃんがあまりわらわない理由が少しわかった気がした。
□
さよみちゃんは、オレの成長サプリの牛乳が飲めない。あと乳製品とナッツが食べられないそうだ。
食べたくない、と、食べられない、は、ちがうんだって。
ふろ上がりにテレビの料理番組を見ながら、材料から牛乳、乳製品、ナッツを引き算してみる。
バターもダメなんだろ? パンとかグラタンとか食べたいときどーしてんだ?
オレの口には今、チョココーティングにアーモンドをトッピングしたアイスクリームがひんやりとけている。
ふろ上がりに食べるアイスはゼータクな気分だ。真冬だったらサイコーだ。
もし、この極上のアイス食べたら死ぬって言われたら。
「だったら死んだほうがマシ」って言う?
今日教室でだれか小さい声で言ってたけど。
ひみつノートのページを開き「木室 京子」の文字をながめる。そーいやこの人、肉がなくてもおかずができるっつってたよなって。
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