バレンタインすとらてじー

3/4
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「ただいまー。今日転校生来たよ」 ランドセルをおいて、着がえたオレをお母さんがげんかんで通せんぼ。 お母さんのおなかはバスケットボールより大きくなった。 「へー、この時期に。男子? 女子?」 「女子。まあまあだった」 「かわいい子なんだ」 「鈴音ちゃんの次くらい。じゃ、イッテキマー」 「ストップ。宿題は?」 「帰ったらすぐやるって。清水たちまたせてるから行かなきゃ。6時に帰る!」 マイボールとマイシューズをもって走った。 ほんとうはまたせてない。オレがよびに行くんだ。 最近お母さんの顔を見たらイライラする。 本当に母親なら分かってくれるもんじゃないの? オレ中のまっ黒がまた大きくなる。 ひまさえあれば友だちとバスケばっかりやってるのは、腹黒い自分がいやだからだ。 □ バスケ友だちの中でも、安原はうまい。 オレのディフェンスをターンでかわし、あっさりレイアップシュートできめられた。 くやしーなー ジャンプ力じゃ負けねーのになー 身長のばしたい。 なんでオレは前から3番目なんだ。 宿題やる前に牛乳をいっきのみした。 背が高くなったらぜったいモテる バスケがもっとうまくなる 上から目せんで清水を見下せる ほらな。いいことばっかだ。 だから早く、 背の高い両親の子どもだって証明をオレにくれよ。 □ 転校生は、中山さよみちゃん。 清水と山崎と帰ろうとして、教室にぽつんと一人でのこっているさよみちゃん、かわいそうだと思った。 たぶんまだいっしょに帰る友だちがいないから。 「よ。家、どのへん?」 「マンション」 「体育館近くの新しい? じゃあいっしょに帰ろうぜ」 「うん」 まだきんちょうしてるのかな、もっとわらえばいいのに。 さよみちゃんは、おとなしそうな子。 いやどうかな。女子にありがちな、なれてきたら本性出して毒はくタイプだったりして。 帰り道は清水と山崎がいつもよりテンション高い。 清「さよみちゃんは何号室?」 さ「教えちゃダメって、お父さんとお母さんが」 清「サイキクスオの能力使うか」 オレ「それってまんま、クウガの第三形熊だよなー」 シーンとして山崎がぽつんと聞いてきた。 山「なに、それ」 オレ「だからクウガのさ、第三形熊…ちがってた、第三形態。緑色の」 山「なあ清水、サイキクスオって、アニメ何曜日だっけ」 軽くオレをハブりやがった清水と山崎にバイバイ。さよみちゃんはオレと2人になると、とたんにクスクスわらい出した。 「クウガって知ってるわよ。緑色はペガサスフォーム」 「それそれー。古い特撮ヒーロー、オレだいすき。もしかしてさよみちゃんも?」 「うん。ふふふ……でも君には敵わないと思う」 「あ、オレ神保。でもユッキーでいいよ」 「じゃあ、ユッキー。 今日はありがとう。うれしかった」 「おー。また明日な」 きっとオレがクラスで最初にさよみちゃんをわらわせた。やったぜ。 来年のチョコは、さよみちゃんにおねがいしよう。これでキマリ。 □ 「中山さんって、給食じゃなくてお弁当なんだ?」 「……アレルギーがあって」 給食の時間。 机の上に一人だけ弁当を出したさよみちゃんは、小さく答えた。 みんな興味しんしんでさよみちゃんの弁当を見に集まってきた。 好きなおかずばっかり食べられていいな 給食当番やらないのずるいな 食べられないものがあるなんてかわいそう 食べたらどうなるの 死んじゃうの 「こらー、給食当番は自分の仕事やりなさい。当番じゃない人は手洗いして席につく」 「せんせー、中山さんはなんで給食じゃないんですかー?」 「5時間目の道徳でその話をするから、今は給食の準備に集中して」 ガヤガヤした声はヒソヒソした声になった。 さよみちゃんがあまりわらわない理由が少しわかった気がした。 □ さよみちゃんは、オレの成長サプリの牛乳が飲めない。あと乳製品とナッツが食べられないそうだ。 食べたくない、と、食べられない、は、ちがうんだって。 ふろ上がりにテレビの料理番組を見ながら、材料から牛乳、乳製品、ナッツを引き算してみる。 バターもダメなんだろ? パンとかグラタンとか食べたいときどーしてんだ? オレの口には今、チョココーティングにアーモンドをトッピングしたアイスクリームがひんやりとけている。 ふろ上がりに食べるアイスはゼータクな気分だ。真冬だったらサイコーだ。 もし、この極上のアイス食べたら死ぬって言われたら。 「だったら死んだほうがマシ」って言う? 今日教室でだれか小さい声で言ってたけど。 ひみつノートのページを開き「木室 京子」の文字をながめる。そーいやこの人、肉がなくてもおかずができるっつってたよなって。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!