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肉がなくてもおかずはできる。
アレルギーあってもバレンタインはアリでしょう。
あれから春、夏、秋、冬考えた。
バレンタインデーは女子が好きな男子に本命チョコあげる日なんて、ナンセーンス。
義理チョコ友チョコ逆チョコだっておけ。
いまだ女子の中でういているさよみちゃんは、だれにもチョコあげる気なんてないだろな。
食べ物の話はしちゃいけないふんいきが、できあがってしまっている。
だから今年のバレンタインは、オレがさよみちゃんに作ってあげよう。
牛乳も生クリームもナッツも使わない手作りチョコ。
離乳食の始まった弟が物欲しそうによだれたらしてる。
おまえはダーメ。鼻血でるから。
□
チョコレートをとかして、くだいたコーンフレークまぜて、かためるだけの輪廻転生リサイクル。
オレの腹の中は真っ黒だ。
これを言えば全部終わる、そんな最終兵器が腹にある。
周りはみんな見た目でしか判断しないから絶対わからない。お前らが思ってるほどオレは子どもらしい子どもじゃない。
でもうれしかったんだ、腹の底から。
去年くるみちゃんにあげたブラウニーよりだんぜん超かんたんなレシピなのに、すっごいよろこんでくれたのが。
ありがとうって言ってくれたのが。
ちゃんと言ったよ? 乳製品とナッツは使ってない。
調べた。
アレルギーでも食べられるおやつ。
次の日、さよみちゃんは学校を休んだ。
アレルギー反応が強くでて入院したって先生が言った。
かわいそうという声
たいへんなんだねという声
そんな同情は一瞬だ。
わたしアレルギーじゃなくてよかったという声
そしてみんな3分後には忘れてる。
「漢字テストやるらしいよ」
「えー」
「今日の給食ホワイトシチューだって」
「うまそー」
「ユッキー、体育館の場所取りよろしくー」
「……」
エンピツにぎったままのオレの手のひらからは、あぶら汗が止まらなかった。
なんか食べちゃったの?
もしかしてオレのチョコで?
ちがうよな?
だって牛乳もナッツも使ってなかったよ?
バターも生クリームも……
オレ、なんかまちがえたの?
オレのせい?
なの?
□
1週間休んで、さよみちゃんは復活した。
いっしょに帰ってくれるのオッケーしてくれて、すげーホッとした。
好意が毒を盛った。
オレたちがふだん、うまいうまいと食べてるものが、さよみちゃんにとっては毒になるということを、
オレはよく理解してなかったんだ
「本当はチョコレートもたくさん食べちゃいけないの。でもうれしくていっぱい食べちゃった。これ食べて死ぬんならいいやって」
「そんな……」
「好きなもの食べたいって思ったこと今までなかった。食べていいと言われたものを口に入れるだけ。おいしいとか、よくわかんないし。みんなと同じもの食べることも諦めた」
「……」
「でもあのチョコは、食べたかったの」
さよみちゃんは、オレを見た。
「そしたら甘くて
おいしくておいしくて
こんなにおいしいものがこの世にあるの?って、ダメなのに止まらなくて一気に全部食べちゃった」
さよみちゃんは笑っているけどオレは泣きたかった。
「食べながら、メチャメチャ痒くなって息が苦しくなって、本当に死んじゃうの? と思って、はじめて後悔したよ」
「……ごめん」
「違うよ。後悔したのは、死んでもいいやって思ったこと」
「それだけ苦しかったんだね」
「違う違う。いつかユッキーにバレンタインチョコレートあげたいからなの。死んじゃったらあげられないもん。
私ね、少しずつだけどいろんなものが食べられるようになるんだって、お医者さんも言ってくれた」
「オレに気をつかってる?」
「気なんて遣ったら何も言えなくなっちゃうよ」
「そっか。だよな」
だから教室でおとなしいんだな。
ムッツリじいさん家の庭から歩道にはみ出してる木の枝にジャンプ。
「あ、マンガ貸してあげようか。おもしろいのあるんだ」
「うん!」
さよみちゃんとなら、気をつかわないでお気に入りのマンガをいっしょに読めそうじゃん。
それに、
あっさりバレンタインの予約もらっちゃった。
「朝何時に家を出てる?」
「7時半くらいかな」
「じゃあオレも明日からそうしよっかなー」
「一番乗りじゃなくていいの?」
「もうすぐ卒業式だし。ガキっぽいことは下級生にゆずるよ」
-つづく-
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