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4月14日、『スナック・喫茶くるくるぱぁ〜』にて。
白鳥彩蝶は、紙巻きタバコを手に黄昏ていた。
「イロ…、どうしたの?」
ヴァイオリンの弦を張り替えていた兄の天箜はいつもとは違う表情の妹を見て不意に訊いた。
「…………。」
彩蝶は天箜の問いかけにも答えず、店の窓の外を眺めて上の空。
「答えたくないなら良いけど…、珍しいね。イロがそんなふうにしているなんて…。」
すると彩蝶は、咥えタバコのままおもむろに立ち上がってルージュ色のグランドピアノに向かい第二響板を下ろすと鍵盤を叩いた。
タ〜ン…、タ〜ン…、タ〜タ〜タ〜ン……
まだ開店していない静寂の店に、彩蝶が弾くピアノの音だけがその場の空気を支配する。
「ショパンの『別れの曲』……っ、…そうか……、今日は彼の命日だったね。」
………
一通り弾くと、彩蝶はため息混じりにタバコの煙を吐いて鍵盤から手を離した。
「ねぇ、アニー…。あの時、彼奴は…どうしても殺されなきゃならなかったのかね……?」
突然の彩蝶の問いかけに天箜は息を呑んだ。
「それは……、俺も分からないよ…。ただ、彼も馬鹿じゃない。イロが考えている以上にもっと深い別の理由があったのだと俺は思うよ。その手掛かりを見つけるためにこの時代に来たんでしょう?」
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