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……という所から、僕はひとつの考えに思い至った。
恋人の聖地を掲げるからには! 新婚旅行のメッカを名乗るからには! 「僕」自身が独り身ではあまりにも説得力がないのではないか!?
そうだ、せっかく熱海のロマンチックを代表する存在なのだ。誰かパートナーを見つけ、皆に幸せのおすそ分けをしなければ! この場所から、まずは僕が愛を発信しなければっ!
ひらめきを実行に移してこそ、できる男というものである。
というわけで、今日も今日とて僕は純白のタキシードを着こんで、親水公園付近にて白昼堂々と花嫁探しに勤しんでいたのだった。
「お嬢さん、僕のお嫁さんになってくれませんか」
颯爽と跪き、真っ赤なバラの花束を差し出す。
こぼれんばかりに白い歯を輝かせてプロポーズすれば、旅客の女性たちはたちまちぽっと頬を赤らめる。だがすぐに照れて走り去っては、遠巻きにきゃあきゃあ騒いで、それで終わってしまうのだった。
噂の美青年とか、波打ち際の麗人とか、そんな風に噂されても困ってしまう。謎多き美男子なんて柄じゃない。
そんなものよりもっと、曖昧であやふやで、恰好のつかないお気楽な存在―……。
僕は、渚町の泉都幻象だ。
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