私の日常

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私の日常

 カモメが、鳴いている。  ぼんやりとしていた意識と視界が、時間と共に少しずつ形を取り戻していく。机が放つ微かな木の匂いが鼻に満ちて、ざわついていた心が幾分か安らいだ気がした。  どうやら、机に突っ伏したまま眠ってしまったらしい。私は未だに眠気の残る目を擦ると、重い体を起こして前を向いた。  机を挟んで向こう側にある出窓から、眩い日差しが降り注いでいる。  空は地上に近づくにつれて、鮮やかな青から淡いライトブルーへ。絵筆では再現が難しそうな、境目を感じさせない滑らかなグラデーションを描いている。  その下に広がる大海原では、銀の粒子を散りばめたかのようにきらきらと輝きを放っていた。波は穏やかで、海面は空を呑み込んだかのように澄んだ青色をしている。水平線の上にこんもりと盛られた雲の塊が、夏の訪れを告げていた。  私は出窓に置かれた、西洋風の古い置き時計へと視線を移す。時刻は三時を少し過ぎたところで、休憩の終わりまでまだ少し時間がある。  そういえば少し前から、ドアの向こうが騒がしくなった気がする。金属と陶器が触れ合う音や、男女入り混じった話し声が複雑に絡み合い、部屋のわずかな隙間から入り込んで私の鼓膜を刺激する。  白い鳥たちが舞い踊る空を眺めながら、私は肘をついて両手の上に顎を乗せた。静かに息を吐くと、日の光に照らされたごく小さな埃たちがふわりと飛んだ。
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