一話目

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 この交換日記は、二学期の始めくらいから 始まった。私は図書委員をしているから、 先生に任されて本の整理をすることが度々 あった。  その過程で伝記コーナーに差し掛かった 時だった。出版順に並べようと本に手を かけた瞬間、何に引っ掛かったのか5、6冊 一気に落ちてきたのだ。  「ギャァア!」と悲鳴を上げて尻餅を ついて上を見ると、その奥にノートのような 物を見つけた。そのノートこそ、この 交換日記だったというわけだ。  「体育か…うちは縄跳びかな。」  マナちゃんという表記に若干ニマニマ しながらシャーペンを取り出す。もちろん 書くのは図書委員のカウンターの中だ。 このときばかりは図書室の不人気は助かる。  ○月○日  キャッチボールの話、すごくわかる。 壁打ちでもさせてくださいお願いします。 うちでは縄跳びしてるよ。イエス個人競技! でも毎回最初にやるケイドロ、あれはない。 私突っ立ってるだけでゲーム終わる(笑)  ところでキャッチボールしてるってことは 君は5組?私4組だから近いね!  こんなものか、とシャーペンを置く。  ケイドロでいいんだろうか。もしかしたら ドロケイだったかも、とかブツブツ考えつつ ノートをもとの場所に置いた。  はい、お気づきだろうが私はこのノートの 相手を知りません。一度名前を聞かれた事が あったから相手は私の名前を知っているが、 相手はどうやら名前が変わっていて、 あまり好きではないらしいから、私は専ら 相手のことを“君”とか“貴方”と 読んでいる。  恋人同士かな?!って思うけど、 まあ知らんもんは知らん。話し相手がいる だけで万々歳だ。  …いや、あわよくば誰か知りたいとか 思ってない。相手のプライバシーは尊重 するぞ私は。思ってないったら思ってない!
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