第一章

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  2  オヤツを期待しながらベッドで寝転がっていると、外の方から僕を呼ぶ声が聞こえた。  窓から外を見れば、僕の友達であるニックがいた。黒いTシャツに青いジーパン、日頃沢山外に出居るのか日焼けしている。インドアの僕とは違い健康的な姿が眩しかった。 「来たんだってなー。おばさん達はどうしたんだよ」 「遅れてくるよ。僕だけ早めに来たんだ」  祖母に出かけてくると告げ、僕はニックの待つ庭に向かった。彼は道中で拾ったのだろう木の枝を地面に突き刺しながら「よ」と片手を上げる。 「親から逃げてきた。進路の事で喧嘩してたから。丁度良い時に来てくれた」  口実になったよ。と、笑う彼は僕より一つ年が上だ。けれど、幼い頃から一年に一回祖父と同じ頻度で会っているので、感覚としては親戚に近い。 「ニックは、大学に行くの?」 「いや、もう勉強はしたくねぇ。俺は車の修理工場に勤めんだよ。親戚のおじさんが誘ってくれてて、コネってやつだな。お前は、まだ一年あるから考えとけよ」  あと一年。  僕が大学に行く事は既に決まっている。けれど、そこは黙って頷いておいた。  話題は尽きない。  僕も話したい事があったし、ニックにも話したい事はあったようだった。  この村に若い人は少ない。それに毎日、毎日、顔を合わせているから大抵の話題は、皆共通で既に知っている。  進路の事、両親の事、大抵の子は皆街に出て行ってしまう事を聞く。ニックの進路について親が肯定的ではなく喧嘩が尽きない。親としては大学に行って欲しい。それが重くてしかたがないと彼は笑う。  僕は、この前友達と幽霊屋敷を見つけたから冬休みに探検するという話をした。 「幽霊屋敷? アトラクション?」 「ううん、違うよ。ただの空き家。通った人が、変な声を聴いたんだって」  幽霊屋敷探索について、僕は乗り気でない。どうしてわざわざ危ない場所に好き好んで行くのだろうか。けれど、約束をしてしまった以上、冬休みに行くのは絶対だ。 「じゃあ、冬休みにお前ン家行くわ」  強気のニックに僕は笑った。確かに相手が幽霊じゃなくて人間だった場合、僕より体格のいい彼ならば拳の一発や二発入れる事は余裕で出来るだろう。大体彼は恐怖に対しては常に喧嘩腰で挑む節がある。 「でもさ、ここにも面白い話があるんだぜ」  ニックがそう切り出す前に僕は誰かの視線を感じた。僕が顔を上げると祖父の玄関前に、先程窓の外から見た緑目の女の子が立っていた。  人形のように感情の無い顔。だというのにギラギラした緑色の瞳。外にあまり出ていないのか、白すぎる肌は、その表情と相まって益々、彼女を人形のようにみせる。  彼女はふいと顔を背け祖父の家に入って行った。 「あの子は、どこの子? 越して来たの?」  閉ざされた玄関から目を離せないまま、僕は隣にいるニックに尋ねる。 「知らね。先週からいるみたいだけど、じいちゃんは『深く関わるな』って言ってる。名前は……なんだっけかな聞いてねぇかも」 「深く関わらない方がいいって、悪い人?」 「いやぁ、ジジィの言う事だ。『余所者には厳しく』みたいな感じだろ。ここは田舎だからそーゆー悪習が強いンだよ。『森に行くな』ってヤツもそうだ。クマも出ないのにビビってンだぜ。っだっつうのに、何が起こったかも教えてくれねぇ」  ニックはそこまで言うと、急に俯いた。  俯いただけでそのニヤニヤ顔は収まり切れていない。何かを驚かせようと雰囲気づくりしているようだ。
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