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アルバムと名刺を写真に収めながらケイは他に資料がないか再び机の中を探る。
手持ち無沙汰な僕は、それでも彼女の仕事を手伝っていると形だけは見せたく本棚を探る。一体何が情報となるか分からない。
本棚を探りながら僕は頭痛を感じていた。先程まではなかったのに頭の中がジクジクと痛む。声に出す程でも寝なければいけないという訳でもないが、頭が重く感じるのはとても不快だった。
きっとこの異様さに、体調不良を起こすという事で体が拒絶反応を見せ始めたのだろう。この頭痛を少しでも忘れる為に、僕はケイの嫌う無意味なお喋りをする。
「封印をあと一箇所、壊せばいいんだね」
「そう。だけど、言った通り厄介な魔法も加わっているから私がやる。あなたは帰る事だけを考えて」
「また、さっきと同じ魔法なのかな……」
「そうでしょうね。『壊されないようにする』というのが第一の目的でしょうから。どうせ部屋の中に入ったら作用されるんだからそこまで心配しなくてもいいわ」
ケイが言い終わる前に、ふと楽し気な声が聞こえた。
この家に入って来て声というものは僕とケイ以外聞いたことがない。僕は反射的に声の主を探した。ホムンクルスも数が減っているのか姿が見えない。もし、ここに僕と同じように迷い込んだ人がいるのならば助けてあげるのが道理だろう。
ケイといえば携帯を弄ったまま微動だにしないし恐らくその声には気が付いていない。
「ケイ。声が聞こえる、多分僕みたいに迷い込んだ人がいるんだと思う」
「そう」
ケイは冷ややかにそう言うけれど、動こうとしない。
二分、いや四分経っただろうか。痺れを切らした僕は、せめて廊下だけでも見ようと歩きだした。
ココにいるのは大抵泥であり、攻撃的にも見えなければ動くだけでもその四肢を壊してしまう脆い物である。だから、そこまで怯える事は決してない。けれど、今年の夏、あの忌ま忌ましい経験した僕は、どうしても警戒せずにはいられない。
そっと頭だけ出して、廊下を確認する。
泥も声の主もいない。フローリングに泥が無いのは、きっと他のホムンクルスが掃除をしているからだろう。
ケイの所に戻ろうとした時階段を下りる少女の姿が見えた。黄色いシャツにジーパンのその少女は、老婆のような白い髪をしていた。少女はホムンクルスでも見たのだろう、今にも泣きだしそうな顔で走って行く。きっと階段を使ったのだ、足音はパタパタと遠ざかっていく。
「あの!」
僕は反射的に彼女を追いかけた。
この騒ぎならさすがにケイも気が付くだろう。そんな気持ちのままそうして階段を駆け下りていく。
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