9人が本棚に入れています
本棚に追加
4
ペタペタと聞こえる足音からするに彼女はきっと裸足だ。チラリと見えた容姿、そしてこの足音に嫌な予感がしてたまらない。
ホムンクルスが一体も見えない事を良い事に僕は彼女の後を追って行く。といっても彼女は相当足が速いのか一向にその背中を見る事も叶わない。
階段を下りて廊下を走り、そして階段を再び下りる。
一階から下りれば、それは地下室と呼称する場所だった。
フローリングだった床が石畳に変わり、埃の無かった家が地下室だけはこうも埃が積もっている。
一番近くにあった扉を細心の注意を払いながら開けるが、中は誰もいない。
この部屋は太陽光すら差し込まない。
窓には全て遮光カーテンが閉められていた。そのカーテンの前には棚が置かれ、何が何でも暗さを保持したいという気持ちが見えた。女性が使うような家具はどれも埃が積もっていて使われた形跡はない。
安心したくて窓に近寄り棚によって隠れきれてない遮光カーテンを少しだけ捲る。それだけで日光が差し込んできた。背伸びをして外を見る。ここは地下なのか僕の目線で丁度地面と人の足が見えた。
人の足――……。
それは、もしかしたらホムンクルスかもしれない。けれど、履き潰された白いスポーツシューズには見覚えがある。どうにか上を見ようと体制を変えて再度覗き込もうとし――……僕はギクリと動きを止めた。
この部屋、そして僕のこの行動一つ一つに覚えがある。あの白いスポーツシューズは、あの持ち主、そしてあの足の本人。
頭が、心臓が、それ以上考えたくないと悲鳴を上げた。頭痛がより一層強くなり、心臓はバクバクと五月蠅くなり続ける。
咄嗟に逃げ出そうとする僕の前に、扉を静かに閉める人が居る。
白髪で赤い目をした少女。
悲鳴を上げなかったのは、あまりの恐怖と驚愕に声が出なかったからだ。
「外は危ないのよ。マリアと一緒にいよ?」
今年の夏。忌ま忌ましいあの事件。僕は頭を抑える。頭痛は強くなり続け、もはや頭が割れてしまいそうだった。
幾度となるカウンセリングで僕はあの事を少しずつ忘れていった筈だ。悪夢も見なくなったし、暗所が怖いと思う事も少なくなった。忘れる努力をしていた僕を現実はこうも嘲笑う。
僕の目前で、死んだ筈のマリアが微笑んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!