第八章

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 4  動けない僕だったけれど、森の中でキラリと輝く物を視界の隅でとらえた。  フラスコであってほしいと願いを込めながら、それに駆け寄ってみればここには似つかわしくない僕が求めていた物が置かれてある。  森の中で黒い靄を出すフラスコ、それに血を注ぐ為の不思議な機械が置かれている。 「これだ」  フラスコは黒い煙を吐きながら延々とホムンクルスを作ろうとしている。  丁度、一つ作ろうとしているのだろう、フラスコから眼球が確認出来た。僕に壊されないように再びマリアを作ろうとしているのか、その眼球に赤い瞳が浮かんでくる。 「これがあるからいけないんだ」  血液を入れるチューブを乱暴に引き抜き、異臭を放つフラスコを手に取る。 「なぁ、何してんだよ」  ふと、懐かしい声に僕は止まった。  目の前には友達のニックが立っている。  アレも泥だ、ホムンクルスだ。  彼はあの大きな男によって殺された。あの時の目を、僕は見ている。けれど、目の前にいるのは、懐かしい声で懐かしい笑みを浮かべる僕の友人だ。  あまりの懐かしさに、僕は再び涙を流す。  彼の葬儀は誰もが泣いていて、悲惨な死に方をした彼に僕は最後の挨拶すら出来なかった。彼の顔を見る事すら叶わなかったのは、彼の両親が誰にも見せないと言っていたからだ。 「前に言ってたお化け屋敷の探索だっけ? 俺も連れて行ってほしいんだけど」  人懐っこい笑みで死んだ筈の友人は笑う。  また前みたいに世間話がしたい、彼の就職先はどうなったのだろうか。僕の日常は一変した、結構大変だったけれど前には確実に進んでいる筈、今はもう筈だったになってしまったけれどそんな話がしたい。  僕が持つフラスコからは白い手が伸びてくる。あと少しでここから再びホムンクルスが生みだされる。 「ごめん」  そう答えるのが精一杯だった。  もうこの世にいない友人を見てしまったら、僕はもう二度とフラスコを割る事が出来ない。叫び声は僕のだったのか、フラスコの中に今か今かと待っていたホムンクルスだったのか。  パシャンとフラスコが割れるより先に、ニックは「いいよ」と優しい声で言ってくれたような気がした。  フラスコが割れた瞬間泥が四方に弾け飛んだ。森を見せていた世界が、空間が溶けるように異様な色でグルグルとかき回されながら本来の姿に変わっていく。  後ろを振り返れば倒れていたマリアも泥に戻っており、目の前にいたであろうニックの場所にも泥が一つ山になっていた。 「おかえり」  ケイの声に僕は再び我に返った。
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