第八章

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 5  気が付けば、僕はクローゼットの前に倒れていた。  フラスコは割れて床に散らばっている、  クローゼットの中も、僕も泥まみれだった。そして、僕の側にはミイラ化した男の死体が転がっている。その死体はもう何年も前だろうが胸には大事そうにノートパソコンを抱いている。 「最初に「行かないで」って言ったのにね」  そう咎めるケイの声音が優しいあたり、彼女なりに労ってくれているのだろう。辺りを見回せばケイが「パソコンがない」と言っていた二階の部屋に思えた。 「何があった? この死体は?」 「クローゼットの中にフラスコがあっただけ、魔法陣が少しそこからはみ出ていて本棚を漁っていたあなたが偶然踏んだの。……それで……、ちょっとあったみたいだけど、あなたはクローゼットを開けてフラスコを手に取って割った。この死体がホムンクルスを作った男。血液を与え過ぎて死んだってところ」  ケイはそこまで言うと少し悩んで「怖かったでしょう。おつかれさま」と言葉を足した。そして死体からノートパソコンを奪い取った。証拠隠滅、といったところだろうか。 「嫌な体験だった。君は強いんだね」  魔女だから。とだけ彼女は答えると、座り込んでいる僕に手を伸ばした。  甘えて僕は手を握ろうかと思ったけれど、自分がホムンクルスの種で汚れている事に気が付いて慌てて手を引っ込めた。が、それをケイは強引に掴み僕を立たせる。 「汚れちゃったけどいいの?」  彼女は黙ったまま指を鳴らす。すると、不思議なことに服に付着していた泥が落ちた。 「魔法?」 「魔法じゃない。泥は落ちる物だから」  不可解な言葉を残しケイは歩き出す。床に散らばる泥を避けながら僕たちは階段を下りていく。  僕が最初にいた部屋に戻ってきた。 「早くしないとあなたの友達が肝試しに戻ってくる。あなたはもう一度ここに入ってこなくちゃね」 「僕は……遠慮しておくよ」 「それが賢明。彼らも目的も無く歩き続けて疲れているだろうし」  彼女は開いている窓の前に立った。ここから出たら、普通の日常に戻れる事が出来る。
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