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6
「いい事知りたい?」
早くこの家から出たくて窓に身を乗り出した僕に、ケイは突然そんな事を聞いた。僕は身を乗り出したまま「うん」と頷く。
「私の名前。ケイじゃない、ホタルっていうの。天城 螢。日本人じゃないあなたには難しいと思うけど」
「個人情報は機密じゃないの?」
「売名行為くらいはしたいから」
「売名って……」
僕は笑いながら振り返ると、そこにはもうケイの姿はない。
代わりに「おーい」と言う友人らの声に僕は慌てて窓から飛び出た。
地面に着地した途端パタンと静かに窓は閉ざされ、鍵がゆっくりとかかった。
僕はその一連を見届けたあと、友達の所へと駆けて行った。
皆、相当歩き回ったのだろう、各々くたびれた顔をしている。
「ごめん。やっぱり気持ち悪いから帰る。探検なら君たちで行ってくれる?」
すると、友達らは皆不思議そうに顔を見合わせるとまじまじと僕を見た。
「探検? 俺らはお前を探しに来たんだぞ」
「『息子がいない』って、お前のお母さんに頼まれてきたんだからな」
話が変わっている。と、思ったが、言葉にしなかった。ホムンクルスを見られない為のケイの魔法なのだろう。
「散歩してたら迷子になったんだ。ごめん」
僕がそう答えると、『見つかってよかった』だの『危うく警察に連絡するところだったんだからな』などとそれぞれ言ってくる。
「ごめん、ごめん」
僕は適当に謝りながら、先程まで入っていた家をチラリと見る。けれど、そこにあったのは、似ても似つかないドアも窓ガラスさえないただの朽ち果てた家だった。
先程までの事がまるで夢のようだ。
悪夢には違いなかった、けれど、それでどこか大事な物のように思えた。
僕は友達に、ホムンクルスではない人たちに呼ばれ、そうして再び普通の日常に帰った。
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