第二章

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 2  あの牢から出たらすぐに誰かと合流出来る。あの壁の先は外で、すぐに逃げられる。そんな甘い事を考えていた自分に心底ガッカリする。  数分、実際には数秒だろか。絶望で動けなかった。それでも、少しずつここから出なければいけないという気持ちに駆られる。  ここはまだ牢でないだけいい、状況的に見て一歩は前進した筈だ。  手掛かりになる血痕や形跡はないのだろうかと、床に這いつくばって探してみる。けれど、血痕はここで途切れていた為、脱出のヒントとしてわざと血を出してくれたようだ。と、同時にここからは自分で考えなければいけないのかと気落ちする。  この部屋は太陽光すら差し込まない。  窓には全て遮光カーテンが閉められていた。そのカーテンの前には棚が置かれ、何が何でも暗さを保持したいという気持ちが見えた。女性が使うような家具はどれも埃が積もっていて使われた形跡はない。  安心したくて窓に近寄り棚によって隠れきれてない遮光カーテンを少しだけ捲る。それだけで日光が差し込んできた。背伸びをして外を見る。ここは地下なのか僕の目線で丁度地面と人の足が見えた。  人の足――……。  それは、もしかしたら吸血鬼かもしれない。けれど、履き潰された白いスポーツシューズには見覚えがある。どうにか上を見ようと体制を変えて再度覗き込む。  そこにいたのは、失踪したニックだった。  夜中に出かけたといっても彼はパジャマ姿でない。森に入るというていで夏場だというのにあの長袖長ズボンなのだろう。そんな外着を見てメールの内容を思い出す、怒っていたとはいえ本当に一人で単独行動をするとは思わなかった。  ニックの格好はボロボロで腕は怪我したのだろう、既に血にまみれている。その血の量から見るに、森に入って誤って枝で、葉で、皮膚を切ってしまったという訳ではなさそうだ。僕と同じくここに住んでいる吸血鬼に襲われたのだろう。  彼はブツブツと何かを言っているようだ。が、あまりにも小声で聞き取れない。声をかけようにも僕がいるのは地下、彼よりも近い距離で吸血鬼に聞かれてしまっては堪らない。僕は逃げる場所も分からないし、ここでは袋の鼠なのだ。  どうしたものかと考え込む僕を他所に、彼はこちらに気がつく様子もなく頼りない足取りでどこかへ行ってしまった。  あんな状態でいたら危ない、追わなければいけない。  反射的に部屋を出ようと扉を開ければ、ありがたい事に鍵はかかっていない。だが、ギイと軋む音が廊下に響いてしまった。  体が凍りつく。  僕が逃げたという事が分かってしまう。しかし、今せっかく出られた部屋に再度隠れてやり過ごすなんて事は出来なかった。  音を立てないように細心の注意を払いながら廊下を走る。  人はいない、ただ床は時折血で汚れ、気持ち悪さをより一層引き立たせていた。ヒントとして残してくれたぽたぽたと垂れる血とは違う、明確に血を流す《何か》を引きずった痕は決して一つではない。  周囲を警戒しながらも、僕は隣の部屋に身を滑らせた。
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