第八章 初体験

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土曜日の朝8時過ぎだというのに近所は静かだった。いつもは外を掃き掃除している近所のおじいさんや自宅前の花壇の手入れをしているおばあちゃんも姿が見えなかった。 (なんか今日は静かだな) そんなことを思いながらも忍をバス停まで送って行った。バス停に着いてほんの少しでバスがやって来た。 「じゃあまた後で」 「うん、気を付けてね」 「ちとせこそ。ちゃんと家に帰れるか?」 「何よそれ、すぐ其処なんだから帰れるよ。しかも朝なんだから」 「そっか──じゃあな」 「バイバイ」 バスに乗り込んだ忍が窓越しに手を振る。その姿が見えなくなるまで私は手を振り続けた。 (ふふっ、バスの中であんな大きく手を振ったら乗っている人ビックリしてるんじゃないかな) 忍が傍にいなくなっても忍のことで笑えるのが嬉しかった。 「さてと」 家に帰ってから洗い物を片付けてお昼までお布団を干してお風呂掃除して──などと考えながら家に向かって歩いていると 「……ちぃ?」 「あ」 道の向こうから歩いて来たのは武流くんだった。 「武流くん、どうしたのこんな時間に」 「ちぃこそ何?バス停に行っていたの?」 「あ…えっと……ちょ、ちょっと運行表を見に…」 「今更なんで?そんなの見てどうしたの」 「あ…あの…」 忍とのことを言い難かった私は実に怪しい動向を武流くんに見せてしまっていた。
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