第八章 初体験

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(まさか忍を家に泊めただなんていえないし) 私があたふたとしている間中、武流くんは私をジッと見つめていた。その視線に耐えられなくなった私はついいってしまった。 「た、武流くんこそどうしたの?まさか朝帰りじゃないでしょうね」 「なんで朝帰り?バス停の反対側から現れた僕によくそういう笑えない冗談いうね」 「あ…」 (今のはちょっと嫌ないい方になっちゃったな) 自分の後ろめたさからつい昨日見かけた竹内さんとのことを口走ってしまった。 (なんでここに竹内さんと一緒にいた武流くんの姿が出て来るのよ) 気まずくて少し武流くんから視線を外していると「ばあちゃんの見送りして来たんだよ」と武流くんが言った。 「え、見送り?おばあちゃん、何処か行ったの?」 「町内の老人会で一泊二日の慰安旅行だよ。区民館に送迎バスが来るから其処まで送って来たんだ」 「老人会の…慰安旅行」 うちにはお年寄りがいないから知らなかったけれど、そういえばそういうのがあったなと思い出した。 母が忙しいということは観光シーズンだということ。老人会の旅行も毎年この時期に行われていた。 「あぁ、それでかぁ!」 「何、いきなり大きな声で」 「ほら、近所のおじいちゃんおばあちゃんの姿が見えないなぁと思っていたの。そっか、老人会の旅行に行っているから姿が見えないんだね」 「あぁ、そういえばそうだね。島谷さんのおじいさんも林のおばあさんも参加していたから」 「そっか、そっか」 いつもの風景とは少し違うなと思っていた理由が解明出来て何となくホッとした。
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