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なまじ自分がいつもと違った体験をしたから世界も何処か違ってしまったのだろうかと思ってしまったけれど……
(そんな訳ないのにね、馬鹿だなぁ私)
あははっと乾いた笑いをした私に武流くんは思い出したかのように口を開いた。
「そういえば丁度よかったよ。後でちぃの家に行こうと思っていたけど此処で逢えたから用事、済ませられる」
「用事って?」
「ばあちゃんがちぃにぬか床の世話を頼みたいっていっていたんだ」
「あぁ、ぬか床ね。了解」
武流くんのおばあちゃんが大事にしているぬか床を私は時々触らせてもらっていた。
こうやっておばあちゃんが家を空ける時は私にかき混ぜておいて欲しいとお願いされることがあってこの頼み事は慣れたものだった。そしてお世話の見返りに私はいつもおばあちゃんの漬物をご相伴にあずかっていた。
「ごめんね、僕がやるといつもダメ出し食らって…下手糞だ、ちぃの方が上手だっていってさ」
「ふふっ、そうだったね。なんだろうね、慣れってだけじゃないのかな?」
「奥が深過ぎだよ、ぬか床」
「あははっ、そうだね」
武流くんと他愛のない話をしながら足は武流くんの家に向かう。
そう、こんな風に武流くんと一緒に歩いて武流くんの家に行くことなんていつものことだった。
昔から……それこそ私の中で武流くんは王子様なんだと認識した小さな頃から私は武流くんの傍にいつも寄り添っていた。
だから何の疑いもしなかった。
気が付きもしなかった。
武流くんの様子がいつもとは違っていたということに私は全く気が付かなかったのだった──。
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