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(ちとせが部屋に来るなんていつ以来ぶりだろう)
自分が長い時間を過ごす空間に閉じ込めておきたいと思う女の子がいるというだけでなんだか変な気分になる。
(って、何を考えてる!煩悩退散!)
邪な気持ちを冷静に保とうと必死の僕にちとせは少し俯きながらも口を開いた。
「あ、あのさ、武流くんって……柔道、詳しい?」
「……は?」
「えっと……あの…柔道…」
「……」
「詳しかったら…その、ルールとか技とか…そういうの、教えて欲しいなって…」
「……」
ほんのり顔を赤らめながらその可愛らしい口から吐き出される言葉に少しずつ僕の心は冷えて行く気がした。
『なんでも転校して来た1年に…そいつに一目惚れしたみたい』
数時間前に泉水から訊かされた言葉とシンクロする。
「あ、あのね、知らないならいいの!ただ知っていたら…少しでいいから──」
「…中学の時、体育でやった程度の知識しかないけど」
「え」
「本当に浅い知識しかないけど、それでもいいの?」
「! うん、いい、浅くていい、少しでいい!」
「…そう」
(あぁ…弱いな、僕)
嫌だ嫌だと思っていてもちとせのその笑顔を見た瞬間、どうしようにもなく幸せを感じてしまうのだから。
「本当武流くんって頼りになるね!やっぱり私の王子様だ~」
「……」
可愛いちとせ。純粋で無邪気で裏表のない小さな頃のまま真っ直ぐ育って来た僕の天使。
──だけど
「あ、そういえば武流くん、冴ちゃんと付き合っていなかったって本当?」
「え」
「今日女子がそんなことをいっているの訊いてびっくりしたよ!武流くんと冴ちゃん、仲いいからきっと私の知らない処でつきあっているんだろうなって思っていたのに」
「……」
「じゃあ武流くんも冴ちゃんも他に付き合っている子がいるってことなのかな?…なんかふたりのそういうの、訊き辛くて今まで曖昧にして来ちゃったんだけど──」
「……」
君は時々意地の悪い悪魔になってしまうんだね──
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