第十二章 始まりの一日

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「はぁ~本当、嫌だ。いちいち本当のことを弁解するのに嫌気が差して放っておいたらいつの間にかとんでもない大事になっているし」 「…ふふっ、そうだね」 「笑い事じゃないんだけど」 「でもね、忍と喋ったり接したりしたら噂のような人じゃないってすぐに分かるよ」 「……」 「だって忍は本当に優しくて…思いやりがあって…頼もしくて」 「……」 忍がジッと私を見つめている。その視線を感じて少し気まずいながらも私はちゃんと忍と向き合った。 「私…忍を好きになってよかった」 「……」 「武流くんのことがなかったら私……私は…忍と──」 「もういい」 「!」 不意に腕を取られギュッと抱きしめられた。 「もういいよ…俺、ほんの一時でもちとせと夢みたいな時間が過ごせただけで…凄くいい想い出になったから」 「~~~」 「だから幸せになって。いつも俺に笑顔のちとせを見せてよ」 「~~~っ、忍」 その大きな体の温もりに包まれると酷く安心した。忍みたいな人に愛されたことが私にとってはとても感慨深い記憶になる。 「これからも先輩後輩としてよろしく。──ちぃ先輩」 「! う…うん…っ」 忍から『ちぃ先輩』と呼ばれて少しこそばゆい。私の都合で甘い関係を解消したというのに、それでもこれからの付き合いがあることを示唆する言葉を投げてくれた忍に対して、私は武流くんに感じるものとは違った愛情を抱いた。 こうして私と忍は少しだけ仲のいい先輩後輩という関係に戻ったのだった──。
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