45人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
*
「――文目ちゃん、ちょっと良いかな?」
銀葉館に来てから3週間ほど過ぎ、文目は銀葉館での生活が当たり前に感じられるようになってきた。
日曜日の四柱推命の講座が終わると、後片付けをしていた文目は階段の近くで柊に声を掛けられた。
「はい」
「僕の生徒さんでタロット占いに興味があるっていう人がいるんだけど、ちょっとタロット占いの説明とかやってみる?」
「えっ?」
文目は驚いて柊の顔を見上げた。
「うん、文目ちゃんも僕の助手だけではなく占いをやってもらったり、いずれはタロット占いを教えたりしてもらいたいと思っているから、まずは僕の生徒さんから始めてみようかな、と思って」
「でも、私……」
文目は今度は顔を俯かせた。
確かに柊は前にえりという女性に「彼女は西洋の方の占いが出来るから、そっちの方でも活躍してもらうつもりです」と言っていたし、文目も近いうちに自分で占いをやったりするだろうとは思っていた。
でも、こんなにも早く機会がやってくるとは……。
「文目ちゃんなら大丈夫だよ。ずっとやってたメールの鑑定も評判良かったし、僕にいつも教えてくれているみたいにやってくれれば大丈夫だから」
柊の言う通り、文目が前の事務職をしながらやっていたタロット占いのメール鑑定はすこぶる評判が良かった。リピートしてくれるお客さんもたくさんいたくらいだ。
時間を見て柊にタロットのことを少しずつ教えているが、柊は文目が恐縮してしまうほど知識や占い方を褒めてくれる。
文目も占いをするのは大好きだし、拙いながらタロットカードのことを柊に教えるのは楽しかった。それに、占いをするとお客さんに喜んでもらえて、自分も救われたような気持ちになって嬉しいから、できれば早く占いをしたいとは思っている。
だからと言って、柊に比べれば占い師としては新米の自分が、こんなにも早く柊の生徒に占いのレクチャーをしても良いのだろうか……。
文目は顔を俯かせたまま考えを巡らせたが、ふと自分の左手首に光る金色の腕時計が目に留まった。
7時に位置にさりげなく付いている小さなダイヤモンドが、一瞬キラリと光ったような気がした。
そうだ、自分は父親に「これからは自由に生きろ、後悔のないように生きろ」と言われて銀葉館に来たのだった。
せっかく柊が「やってみる?」と言ってくれているし、タロット占いに興味がある人にタロットの良さを伝えることができるチャンスではないか。
最初のコメントを投稿しよう!